表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

技術研究本部地下施設、第三実験室。


「72時間周期の通信、開始まで残り30分」


田村美咲は新たに設置された解析装置のモニターを確認する。装置の心臓部には最新の量子コンピューティングチップが組み込まれ、従来の百倍の処理能力を持つ。彼女の横では、佐々木課長が腕を組んで待機していた。


「今回は掴めるはずです」


田村の声には、静かな自信が滲んでいた。三日前から、彼女のチームは信号の暗号化方式の解析に成功していた。あとは実際の通信を待つだけだ。


モニターには複数の波形が表示されている。海底からの音響データ。電磁波の変動。水温変化。そして、もう一つ。


「あれは...」佐々木が指さす画面に、微かな変化が現れ始めていた。


「はい」田村が頷く。「反応です」


スクリーン上のデータが、突如として生命を持ったように蠢き始める。量子解析エンジンが、瞬時にデータを処理していく。


「暗号化方式、確認」システムエンジニアの一人が報告する。「予測通りのパターンです」


「解読開始」


画面上に、次々とデータが展開されていく。


「これは...」田村の声が震える。


***


那覇海上保安部通信室。


「はまゆき、はまゆき」通信司令の声が響く。「新たな指示、発信します」


暗号チャンネルが開かれ、データが送信される。巡視船では、山本当直司令が新たな命令を確認していた。


「古賀さん」


「はい」


「針路を変更します。新たな定点に向かいます」


古賀は黙って海図を確認する。指示された位置は、先ほどまでの警戒海域から約十海里離れた地点。そこには、特に目立った地形も施設もない。


「了解しました」


しかし、古賀は直感的に理解していた。これは、ただの定点移動ではない。何かが始まろうとしている。


***


技術研究本部に戻って。


「艦艇の動静データ」田村が声を詰まらせる。「過去72時間の全ての動き。位置、速度、進路...」


「他には?」佐々木の声が低く響く。


「海底地形データ。音響分析結果。そして...」田村は画面をスクロールする。「将来の予測パターン」


「将来の?」


「はい。AIによる行動予測です。私たちの艦艇の動きを分析して、今後の展開を予測しようとしています」


佐々木は深くため息をつく。状況は予想以上に深刻だった。


その時、別のアラートが鳴り響いた。


「新たな信号!」システムエンジニアが叫ぶ。「これまでとは異なるパターンです」


「発信源は?」


「同じ位置...いいえ、wait」エンジニアが画面を凝視する。「複数のポイントから...これは...」


突如、メインスクリーンが赤く点滅を始めた。


「課長!」田村が立ち上がる。「周辺海域で、新たな音響信号を複数検出。これは...」


佐々木は既に携帯電話を取り出していた。ある番号をプッシュする。たった一言。


「始まりました」


電話の向こうで、短い応答があった。


地下室の空気が、より重く沈んでいく。窓のない空間で、唯一の音は機械の発する低い唸りだけ。しかし、全員が感じていた。これは、新たな局面の幕開けだということを。


田村は再び画面に向かう。データは途切れることなく流れ続けている。その中に、彼女たちの知らない真実が隠されているはずだ。


「解析を続行します」


彼女の声は、静かだが芯が通っていた。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ