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防衛省地下三階の廊下は、深夜でも人の気配が絶えることはなかった。


佐々木課長は防音処理された会議室に入ると、既に五人の男女が待機していることに気付いた。海上自衛隊の制服組が二名、技術研究本部から二名、そして内局から一名。全員が、通常の報告ルートとは異なる形で召集された精鋭たちだ。


「田村君の発見した異常信号について、詳細な分析結果が出ました」


スクリーンに最新のデータが映し出される。


「信号の発信位置は、この海域」光点が示す場所を、海自の一佐が凝視する。「水深120メートルから、72時間周期で発信されています」


「通信内容は?」情報本部の分析官が身を乗り出す。


「暗号化されています。しかし...」佐々木は一瞬言葉を切った。「パターンから判断して、周辺海域の音響データと、艦船の動静情報を含んでいる可能性が高い」


室内の空気が凍り付く。


「既に三ヶ月以上、発信が継続している」技術研究本部の上席研究官が眉をひそめる。「なぜ今まで気付かなかった?」


「暗号化の手法が巧妙でした」佐々木は資料をめくる。「通常のノイズと区別がつかない。田村君が新しい解析アルゴリズムを試していなければ、発見は更に遅れていた可能性があります」


「回収は?」


「危険です」海自の一佐が即座に反応する。「相手も監視しているはずです。我々の動きが探知されれば、更なる事態の悪化を招く」


「では、このまま放置するのか?」


「いいえ」佐々木は静かに答えた。「既に、対抗策を準備しています」


***


同じ頃、那覇海上保安部の巡視船「はまゆき」は、日常的な警戒監視業務を続けていた。


「水温18.2度、風速3メートル、波高0.5メートル」


当直の古賀航海士が、淡々とデータを記録していく。夜間の海域は静かだった。時折、漁船のエンジン音が遠くに聞こえる程度。


「レーダー上、特に異常なし」


しかし、古賀は何か引っかかるものを感じていた。二十年の経験が、普段と違う何かを告げている。それが何なのか、まだ特定はできない。


「古賀さん」


後ろから声をかけられ、振り返る。当直司令の山本だった。


「はい」


「気になることは?」


さすが山本だ。古賀の違和感に気付いていた。


「はい...」古賀は言葉を選ぶ。「漁船の数が、いつもより少ない気がします」


山本は黙ってレーダースコープを覗き込む。確かに、この時期としては漁船の数が少なかった。


「彼らの方が、敏感なのかもしれませんね」


山本の言葉に、古賀は何も答えなかった。ベテラン漁師たちは、時として海上保安官よりも優れたセンスを持っている。彼らが漁場を避けているとすれば、それなりの理由があるはずだ。


「監視を強化します」


古賀は双眼鏡を手に取った。夜目が利く彼の目は、わずかな異常も見逃さない。


その時、通信機が小さな音を立てた。


「はまゆき、はまゆき。那覇海上保安部です」


山本が受信機を手に取る。


「はまゆき、こちら」


「現在位置で、特別警戒態勢を発令。詳細は暗号チャンネルで送信します」


山本と古賀は顔を見合わせた。特別警戒態勢。それは、普段は発令されない命令だった。


「了解、那覇海上保安部」


山本が通信を切ると、暗号解読機が静かに作動を始めた。


「古賀さん」


「はい」


「私たちの勘は、当たっていたようですね」


古賀は黙って頷いた。夜明けまでまだ時間がある。その間に、何が起こるのか。あるいは、何も起こらないのか。


巡視船「はまゆき」は、静かな海域で警戒を続けていた。


(続く)

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