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十二

技術研究本部、第三実験室。

0630時。


「課長!」田村美咲の声が、緊張に震えていた。「海底装置からの信号、解読できました」


佐々木課長が駆け寄る。スクリーンには、複雑なデータ配列が表示されている。


「これは...」田村の指が画面上を走る。「海底地形データ。しかも極めて詳細な三次元スキャン結果です」


「海底地形?」


「はい。特に...」彼女は一瞬躊躇う。「海底ケーブルの埋設位置に関する情報です」


佐々木の表情が変わる。離島に埋設された海底ケーブル。それは、日本の通信インフラの重要な中継点の一つだった。


「さらに...」システムエンジニアが新たな報告を入れる。「各装置の設置位置、全てが海底ケーブルのルート上に一致します」


***


首相官邸地下、緊急事態対処室。

0635時。


「状況説明を」首相の声が、重く響く。


「はい」防衛大臣が前に進み出る。「彼らの目的が判明しました。海底ケーブルの...」


「切断ではありません」安全保障局長が割って入る。「もっと巧妙な計画です」


スクリーンに、新たな図面が表示される。


「彼らは、ケーブルに物理的な接触装置を取り付けようとしています。通信内容の傍受、あるいは...」


「制御の可能性も」技術担当官が補足する。「一度装置を設置されれば、遠隔での操作も可能になります」


室内が静まり返る。


「アメリカは?」


官房長官が応じる。「既に状況を共有。彼らも同様の事案を...」


***


離島高台。

0640時。


第一空挺部隊の狙撃手が、港を見下ろしていた。夜明けの光の中、全ての動きが明確に見えている。


「報告」通信機が小さく震える。「対象、特殊潜水服を装備。海底作業の準備を開始」


別の通信が入る。「那覇から増援。第二次空挺部隊、10分で到着」


しかし、その時。


「全装置、急速撤収開始!」


突如として、黒装束の人影たちの動きが変化した。整然としながらも、明らかな撤収行動。


「海上の不審船も、一斉に転針」巡視船はまゆきからの通信。「全て、港から離れる方向に」


彼らは、既に目的を達成していたのか。あるいは...


***


技術研究本部、第三実験室。

0645時。


「最後の信号を確認」田村の声が響く。「海底装置、全て活動停止」


佐々木は黙って画面を見つめる。


「しかし、課長」田村が振り返る。「気になることが」


「なんだ?」


「あの装置、私たちが発見する前から...」彼女は言葉を選ぶ。「まるで、発見されることを計算に入れていたかのような設計でした」


佐々木の表情が曇る。


「つまり、これは...」


「はい」田村が頷く。「今回の作戦は、おそらく...」


「デコイ...」佐々木が言葉を継ぐ。「本当の作戦の隠れ蓑だったということか」


静まり返る実験室に、朝日が差し込んでいた。しかし、誰もその光の暖かさを感じることはなかった。


この一連の出来事は、より大きな作戦の、ほんの序章に過ぎなかったのかもしれない。


(第一部 完)

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