十一
離島東部高台。
0600時。
夜明けの光が海面を染め始めていた。第一空挺部隊の一班は、高台の縁に沿って展開を完了していた。東の空は既に明るく、西の空にはまだ残る暗さがコントラストを作っている。
「報告」無線から囁くような声。「対象、倉庫から機材の搬出を継続中。夜明けの光の中、識別可能な装備を確認」
高性能暗視鏡を通して見える港の様子は、明確だった。黒装束の人影たちは、夜明けの光を意識してか、より素早い動きで作業を続けている。
「新たな動き」別の観測手が報告。「漁船の陰から、小型舟艇が追加展開」
薄明かりの中、確かに新たな影が動いていた。
***
巡視船「はまゆき」艦橋。
0605時。
「視界良好」古賀航海士が双眼鏡から目を離す。「不審船、全て視認可能」
夜明けとともに、状況はより明確になっていた。しかし、それは同時に、彼らの存在も相手に対してより明確になることを意味していた。
「那覇からの指示は?」山本当直司令が問う。
「通信、依然として不安定」通信士の声。「断片的に...」
その時、前方の不審船から、何かが投下される。
「機雷?」古賀の声が張り詰める。
「違う」山本が双眼鏡を固定する。「あれは...」
海面に落ちた物体から、白い煙が立ち昇り始めた。
***
技術研究本部、第三実験室。
0610時。
「スモークスクリーン」田村美咲が報告する。「不審船が同時に展開」
スクリーンには、各地点からの映像が並ぶ。夜明けの光の中、白い煙が海面を覆い始めていた。
「海底装置からの信号、新たなパターンを検出」システムエンジニアが声を上げる。「これは...」
「動きの統制を取っている」田村が画面を凝視する。「煙幕の中で、次の展開のための...」
警報音が鳴る。
「全地点で小型ボートの動き、活発化」
***
離島警察署。
0615時。
木村巡査部長は、空挺部隊指揮官と状況を確認していた。
「避難完了」木村が報告。「残るは警察署の機密書類の処理と...」
その時、港から轟音が響いた。
「火災」若手警察官が叫ぶ。「漁協倉庫が...」
夜明けの空に、黒煙が立ち昇る。
「意図的な破壊工作」空挺部隊指揮官が眉を寄せる。「彼らは証拠を消去している」
木村は無言で頷く。倉庫には漁協の記録と共に、港湾施設の詳細な図面も保管されていた。
東の空は既に明るく、島全体が白み始めている。しかし、その明るさは新たな緊張を照らし出すだけだった。
(続く)




