十
離島上空。
0540時。
夜明けの空に、暗い影が三つ。音もなく降下する空挺部隊の姿が、かすかな朝焼けに浮かび上がる。
同時に港では、無言の動きが続いていた。黒装束の人影が、整然と列を作って機材を運んでいく。彼らの間での会話は、ほとんど見られない。全ては、事前に計画されたかのように進められていた。
一人が腕を上げる。その動作に応じて、グループ全体の動きが変化する。手信号のみによる意思疎通。そこには無駄な動きも、ためらいもない。
***
警察署裏手。
0545時。
木村巡査部長は、住民避難の状況を確認していた。月明かりの中、影のように住民たちが移動していく。
前方50メートルの位置に、第一空挺部隊が着地。完全な無音での展開だった。
木村の視界に、一瞬の光が入る。港の方から、新たな信号。侵入者たちの次の動きを示すものだろう。
彼らの装備、動き方、そして完璧な連携。これは明らかに、長期にわたって準備された作戦だった。
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技術研究本部、第三実験室。
0550時。
「海底装置からの信号、変化あり」田村美咲が報告する。
スクリーンには、複雑なデータストリームが流れている。数値とグラフ、そして暗号化された通信記録。
「これは...」田村が眉を寄せる。「位置情報の交換。彼らは互いの配置を確認し合っている」
佐々木課長が前に進み出る。「パターンは?」
「完全に体系化されています」田村の指がキーボードを叩く。「チェス盤のように、計画された配置図があるようです」
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首相官邸地下、緊急事態対処室。
0555時。
「アメリカ側からの映像を」
スクリーンには、衛星からの熱源映像が映し出される。離島とその周辺海域。そこに浮かび上がる、整然とした配置の光点群。
「あれは...」安全保障局長が声を潜める。「まるで...」
「封鎖線を形成している」防衛大臣が言葉を継ぐ。「離島を完全に孤立させる態勢です」
スクリーンの光点は、確かに計算された形状を示していた。不審船、小型ボート、そして上陸した人員。全ては、精密な歯車のように組み合わされている。
「これは単なる示威行動ではない」
官房長官の言葉に、誰も反論しなかった。
その時、新たな報告が入る。
「第一空挺部隊から。敵の第一接触、開始」
(続く)