ミリタリーチート能力者と戦った冒険者の顛末
「ヒドイ・・グスン、グスン、お父様は、見た目は悪人顔です・・・私も演劇の悪役令嬢にそっくりと言われています・・・でも、殺される謂れはありません」
お父様は貴族です。領民に、頼られております。領主ですから、自領を富ますために、悪いこともしてきたでしょう。
しかし、今回は、全く非はございませんわ。
この領で、悪い商売をしている輩を懲らしめていたら、
突然、殺されました。
ええ、相手は異世界人です。
しかも、悪びれることもなく、
『君、悪役令嬢だよね。お父さんに虐められていた?大丈夫?』
と聞いてきたのですわ。
「そこは、訳わからないな。異世界人の思考か?」
「奴は、王家の保護を受けております。不服を申し立てたら、決闘で、ケリをつけろ。決闘裁判をしろと言われました」
「ほお、それで、俺に依頼をしたのだな」
「はい、異世界人殺しと高名な貴方様に」
「おい、おい、俺を物騒な名で呼ばないでおくれ、俺は、ガッシムと言う名があるのさ。アカデミー崩れの平民だ。
ところで、異世界人のタイプは?勇者三職だったら、お角違いだぜ」
「何でも、鉄の杖を持ち。礫を放つそうです」
・・・ヨッシャ、当たりだ。
「俺の専門だ。依頼を引き受けよう」
「有難うございます」
俺はガッシム、30歳の冒険者だ。変わっているのは、アカデミー出身で、ミリタリーチートと呼ばれる対異世界人専門なのだ。
異世界は魔法がないが、文明が進んでいる。騎士団は強力だ。全貌が分からない。
異世界の戦術や武器を専門に研究していた。
しかし、いくら、アカデミーで、論文を書いても、平民出身の俺には、日の目を見ない。
アカデミーにあった。対異世界武器戦闘術の本を拝借して、市井に出た。
困っている人を助ける目的と、研究のためだ。
まず。ミリタリーチートと呼ばれる者は、少数派だ。
時々、現れる。
大まかに言って、二種類に分かれる。
この世界に溶け込み。長い冒険者の生活を送る者と、
序盤に消えるタイプだ。
長い冒険者生活を送る者は、常識がある奴だ。だから、こんなことはしないよな。
さあ、奴と対面だ。どっちだ?常識がないから序盤に消えるタイプだろう。
「初めまして、冒険者のガッシムと申します」
「あれ、こんなおっさんが、決闘の相手?!」
「はい、冒険者ギルドでは、主に、コンサルタントをしております。それと、魔道士とC級冒険者の7名です。名前は・・」
「あ、いいよ。どうせ。すぐに終わるから、あれさ。明らかに、か弱い商人を虐めていたから、僕が仲裁に入ったんだよ。その商人たちも、戦闘補助で参加するね」
「どうも、ムカデ商会のムカデとその家族になります」
ほお、旅の経験が長そうだ。こいつは手強そうだ。
こいつらが、釣り目の令嬢の領で、ネズミ講をしていたのだな。
それを、領主の親父がやめろと恫喝をして、懲らしめていたところをこいつが殺したと。
「エへへへ、田舎のお貴族様には、金融が分からないようで、不幸な事故になってしまいました」
「それでは、決闘の方法ですが・・・」
と言えば、相手はこの世界を舐めきっている子供だから、
「そっちが決めていいよ。どうせ魔法とか剣でしょう」
ってな事を言う。
「では、そちらの得意なルールで、市街戦ですか?それとも、野戦をご希望ですか?市街地でしたら、人払いをすることになりますが・・・」
「野戦だな。僕は、森林の方が得意なんだ」
と、かくして、近くのルーンの森で、決闘と相成った。
あいつ、名乗りもしない。
おそらく、すぐに消えるタイプのミリタリーチートとみた。
☆☆☆決闘当日
「ええ、森で、先に、大将を倒した方が勝ちです。大将のガッシムさんが、死んだら、スズキ殿の勝ち。逆もしかりです」
・・・スズキって名か。
「双方、森の中での戦闘になります。これで、良ければ、契約魔法を掛けますが・・」
「問題ありません」
「何だ。人をフラッグにして戦うのか。余裕だよ。僕は何回もやっていたから」
「契約の精霊の名において・・・」
ピカッ!
これで、もし、先に森から逃げ出したら、首が飛ぶ魔法だ。
「物資の補給も含めて、森をでたら、即負けですからご注意を」
【はじめ!】
両陣営は森に入った。
物資が尽きるまでには、決着をつけなければいけない。
ザワザワザワ~~~~
「お義姉様、ガッシム殿は、細身で、頼りなさげです。大丈夫でしょうか?」
「メルル、ガッシム殿は、ミリタリーチート3人、倒しておりますわ」
「まあ、人は見かけによらない。お義父様と同じですわ」
「ええ、お父様の仇を取って頂けるでしょう」
私たち義姉妹の仲は良く。お義母様は、お父様の戦死した戦友の奥様、生きるために再婚したわ。
それを、それを、スズキは、義妹と義母に虐げられているのでしょう?とか抜かす。
許せないわ!
☆☆☆二日目
転移者陣営に衝撃が走る。
一人殺され、食料が無くなった。昨晩、誰かがキャンプに侵入したのだ。
「何故だ!食料が入った魔法袋を奪われた!ポーター役のハンスが、殺された!聞いてないよ。
見張りは何をしていたの!」
「ちゃんと、木の上で見張りをしていました。夜もです!」
「そんな。馬鹿な。これじゃ戦えないよ!」
・・・・・
「ガッシムさん・・・まさか。こんな方法で、簡単に奴らの陣地に侵入できたなんて」
「ああ、さすがに、大将を殺せなかったけどな。天幕の前に見張りがいたから、「じゅう」を撃たれたら危なかった。これで、勝ちだ」
この方法で、一人のミリタリーチートを殺した。
・・・フフフ、何をしたかって、ただ、夜、草原を中腰で歩いて、奴の陣地に入ったんだ。
☆☆☆昨晩
『あの木の上に、見張りがいます』
『シィ、この発言の後は、無言だ。付いてこい。いや、俺のやり方を見て、大丈夫そうだったら、付いてこい』
コクッ
・・・・教本曰く。夜の見張りは、低い位置に置くべし。
夜、高い場所から、低い位置は見えにくい。
過去の戦訓で、夜、高台の見張りの下を、一個大隊(約800人)が素通りした事例があった。
それから、かの世界では、二つの見張り場所が出来た。
昼は高い位置。
夜は低い位置。
文明が進んで、大規模な夜戦が出来るようになってから、分かった事例だそうだ。
そうだ。この世界では夜戦はリスクが高い。あまり行わない。
松明をたいて襲う。夜に戦う戦法はあるがな。
それか、少人数のカゲが忍び込むぐらいだ。
奴らも、松明か、魔獣の足音を予想して見張っていたのだろう。
ゆっくり草に隠れて侵入するのは想定外だったハズだぜ。
・・・・・・
バン!バン!バン!
「お、撃ってきたな。最低300は取れ。奴に対面して、横に動け。これは訓練通りだ。まっすぐに後ろに逃げたらやられるぜ!」
「「「了解!」」」
「伏せたり。座って撃つようになったら、要注意だ」
「了解!」
望遠魔法で、奴の撃ち方を確認する。
しかし、奴は、座ったり、伏せたりはしなかった。
いや、座ったりしているが、教本に載っている撃ち方とは違う。
ただ、座って撃っているだけだ。
こちらは、交代で24時間見張りを置く。
昼は高台。夜は低い位置だ。
夜、奴がやってきた。
ガサガサガサ!
「(皆、起きろ。奴が来たぞ)」
「(よし、逃げろ)」
バン!バン!バン!
奴は俺たちを見失っている。
でも、まだ、撃っている。流れ弾に当たったら、ヤバいな。
夜だから、礫の軌道が、光って見える。
「見とけ。鉄礫の軌道を・・」
「思ったよりも、まっすぐに飛ばないな」
「ああ、弾の質量が軽い。風にも影響されるぜ」
この森は、動けるところが限られている。
林と草原が混じっている感じだ。
奴らに後はない。狩りや魚を捕らなければならないが・・・だいたい予想が出来る。
ドサッ!
「うわ、落とし穴が!木のヤリがびっちり、しかも、クソがぬってある!」
「ポーションはないよ!」
「皆、僕の足を引っ張らないでよ!」
お、声がここまで聞こえてきた。
過去の、これで、ミリタリーチートを一人殺した。
ここで、大将が、死ねば簡単だが、そうはいかない。
奴は仲間の後ろを歩いている。
パラパラ!
「雨が降ってきたな。そろそろ、もう少し待つか」
3日もたつと、奴の『じゅう』の不具合がここからでも分かるようになる。
バン!・・・・カチャ、カチャ
「また、故障!銃って錆びないんじゃなかったのかよ!」
もう、10人いたムカデ一家が、5名ほどになっている。ワナで死んだのか。動けないのか。
教本曰く。
映画では、戦闘シーンばかりが描かれるが、兵士が長い時間、銃と靴の整備に時間を費やすのは省かれる。
銃は錆びにくいだけで錆び。整備しやすい銃は整備しやすいだけだ。
日本の場合、ほとんどの者が軍役に付いていない。
これは、経験しなければ分からないことだ。
「おそらく、大将は軍務の経験はなく、一端、「じゅう」を召喚したら、勝敗が決するまで、召喚を解けないタイプだな。そろそろ一週間か。頃合いかな。逃げるのはやめ。陣地を作るぜ!」
「「「おう」」」
森の開豁地に
小麦袋に土を詰め。土嚢にし、口の字型の陣地を作る。1.5メートルの高さで、二段の厚さ。
ここで、適当な木を案山子にして、挑発する。
だいたい来る方向は分かっているが、油断できない。
360度に見張りを置くぜ。
ピカッ!
「ガッシム、光あり。奴さん。草原に隠れて、進んでいるよ。3時の方向」
「ほお、光るタイプの照準魔道具か、案山子を三回回せ」
クルクル~~~
バン!・・・バン!
やはり、『じゅう』の動きが悪いようだ。
整備は・・教育をしないと、多くの者が、分解できないと書かれていたな。
『じゅう』の煙は目立たない。音も小さい。
しかし、遠めがねのような『すこーぷ』は反射するものもあると書かれている。
「だいたい100メートル先、ここまで接近させたか。中々だな。案山子を一回お辞儀させろ。これで、3時の方向、陣地から100メートル先の合図になる」
これで、エンドだ。
過去、これで一人殺した。その時は、この陣地の後方に、騎士団を隠しておいて、弓で、面制圧をした。今日は別の方法を試そう。
「はあ、はあ、はあ、皆、役に立たない。見張りは任せておいて下さいとか言っていたのに、もう、三日も食べてないじゃないか・・・クソ、弾は召喚できるけど、銃は戦闘が終わるまで召喚を解けないなんて、女神の奴、欠陥のスキルを寄越しやがって・・・弾が切れたか。
マガジン交換・・・・ウワワワーーー、人が出てきた!」
突然、10メートル左右から、人が出てきたように見えた。
ガッシムの仲間が、隠蔽魔法で隠れていた。
この魔法も10メートルまで近づくと、相手に悟られる類いのレベルである。
しかし、これで十分である。
ズボ!ズボ!
「はあ、はあ、もう、いい。ガッシムの所に帰ろうぜ」
「ああ、首を取ろうか。しかし、この箱を外すまで待てという命令の意味が分かったぜ」
その時、別の銃声が聞こえた。
バン!バン!
銃弾は、ガッシムのいる陣地に着弾する。
「何だ。第三勢力か?助太刀がいたのか?」
「見張り、敵は!」
「発光なし!・・・方向は、同じく3時!」
「鑑定士!音と着弾音の鑑定!」
「まさか、一秒の半分!」
・・・1秒間に音は約1000メートル進むとある。
ということは、400から500の距離から撃っているのか!
「安心しろ。この土嚢は鉄礫を通さない。全員頭を引っ込めろ!」
・・・そうだ。教本曰く。
小銃弾は、土嚢で止められると、
しかし、きちんと、下記の図のように、積まないと、まれに、土嚢の隙間から、銃弾が通ることがある。
この本を書いた者は、マメだ。戦闘中にこんな綺麗に積むことは難しいな・・・
バシュ!
「ギャア!」
「ヒィ、鉄礫が、土嚢を突き抜けて来た」
「何だと!まさか!」
「うわ!」
・・・俺は脇腹を撃たれた。
陣地を逃げた者は撃たれた。
暗殺で出ていた者は、確認が取れない。
逃げることに成功したのだろうか?
やがて、草をかき分ける音が聞こえてきた。
シュン!ガシ
土嚢の壁にかぎ爪がかかる。ロープがついていて、引っ張って、壁を崩すのだろう。
ドタドタドタ~~~
いたのは、全身マダラ模様の衣装を身につけた小柄な・・・女の声だ。
「ヒドイ土嚢の積み方だ。お前が、ガッシムか?」
「そうだ・・・」
「アカデミーから、本を盗んだのはお前か?」
・・・もしかして、本を取り返しに、まさか。
「この本は私のお父様が書いた」
「アサカ一族か・・・」
アサカ一族、数十年前に転移してきた異世界の騎士団の末裔か・・・・
召喚する術が子に受け継がれているか?
目が薄い青、髪は、鉄兜で見えないな。混血したか。
「なあ、教えてくれ、この本は、基本編1となっている。まだ、兵器があるのか?危険な兵器がこの世界に来るのか?・・・グフ」
「あるが、心配することはない。この本は聖王国の依頼により。作成したものだ。あちらの世界はほとんど軍役がない。
素人が使えるのは、銃だけと思って良い」
武装ゲリラの装備は、基本、小銃と使い捨ての対戦車ロケットRPG7と車だ。
最新式の戦車が武装ゲリラに鹵獲されても、運用される例はないと聞く。
せいぜい。骨董品の戦車だ。
誘導弾も使えまい。
「訳分からないが、そうか。『じゅう』だけを考えれば良いのだな。俺はどうだった」
「うん。スゴイ。この世界の住人は侮れない」
「そう言ってくれるか・・・」
「本は返してもらう」
「後、ポーションを使うかは自由だ。依頼は本の回収だけだ」
バタバタバタ!
・・・あれは、空を飛ぶ魔道具か?滞空している。
縄ハシゴが出てくる。
人がいる。
会話がここまで聞こえてくる。
「お嬢!無反動で撃っちゃえば早かったのでは?」
「殺したくなかった・・」
「本音は?」
「試したかっただけ」
そうか。あの女は意地で、土嚢の隙間を撃ったのか?
次は、気をつけよう。
その後、ポーションで全員助かった。
「ガッシム!すまない。俺たちは逃げた。不気味だったんだよ!どこにも姿が見えなかった」
「かまわないよ。戦争だったら、そうなる。俺もお前達の立場だったら、逃げて、その首を持って、雇い主に報告していたさ。でないと勝ったことが分からないぜ」
「いや、まだ、俺たちは報告していない。噂話で持ちきりだから知っていると思うけどよ
ガッシムが首を持って、報告しなよ」
「え、令嬢に首を見せろと」
王国の転使者名簿から、一名、スズキの名が消えた。
特に、騒ぎもなく、対策会議も開かれなかった。
序盤で消える転移者が多いせいかもしれない。
最後までお読み頂き有難うございました。