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No.《number》  作者: 響 志宇
1/3

No.1 :No.666


4年前、

日本、如月公園ーーーーーーー


陽も暮れた時刻。閑静な住宅街にある公園。

其処へと続く血痕。辺りには人っ子1人居ない公園内に血塗れで倒れている1人の少年。まだ微かに息のある少年へと伸びる、影のように真っ黒いヒトガタの生き物の左手。

「はぁーっ…、はぁーっ…」

顔も無く口しか無い不気味な生き物は躊躇し呼吸を荒らげながらも、少年へ触れた。

「ごくん、」






















4年後ーーーーーーー


「昨日、如月区星山にてサカサが出現しました。MFSが駆け付けましたが既に頭の食べられた夫婦とみられる遺体があるだけでした。MFSは2人の身元解明を急ぐとしています。捕食方法と付近の防犯カメラの映像からしてNo.9の犯行と見られております。付近にお住まいの皆様はくれぐれも気を付けて下さい」

「嫌ねぇ!この近くよ!」

商店のように小さなスーパー【スーパー中村】の休憩室。昼のニュースを見ている中年女性2人と1人の少年。

「私なんて最近、お客さんがサカサじゃないかって疑心暗鬼よ!」

「ちょっとあんた、やめな!」

「…あ、そうだったわね…」

1人の女性の呼び止めにもう1人の女性が少年の方を向く。少年は休憩室にある週刊誌を黙って読んでいる。一方の女性2人は前へ向き直す。

「ま、サカサなんて会わないわよ!それよりさー、」

話し始める女性2人を余所に、金髪つり目、右目の下に泣き黒子のある少年の黄緑色の瞳に映る週刊誌の文字。【特集!サカサから命を守る5つの方法】



















この世界で食物連鎖の頂点はニンゲンではない。ニンゲンの上に位置し、この世界の食物連鎖の頂点に君臨する生物が居る。それは【サカサ】

サカサは真っ黒い影のようなヒトガタの生き物だ。口しか無く顔をもたない彼らはニンゲンを捕食し、捕食したニンゲンの姿に成り代わる事でニンゲン社会に溶け込んでいる。

しかしサカサは食したニンゲンの逆さの姿にしかなれない。その為、右利きのニンゲンを食べればそのニンゲンの姿をしている間は左利きになってしまう。また、ニンゲンなら逆さに映る鏡では、元から逆さの姿のサカサは正常に映ってしまう。その為、サカサは鏡に映る事を避け、酷く嫌う。

サカサはニンゲンの皮を被っているだけと言えるので、脳や性格は元のサカサのまま。身近に突然性格の変わったニンゲンが居たら、そのニンゲンは既に食い殺され、サカサが成り代わっているのかもしれない。

人類を脅かすサカサを滅ぼすニンゲンで構成された組織がある。名は【MFS】

対サカサ用の変身装置を使いバトルスーツへ変身し、サカサにも勝る能力や武器で戦う戦士が集うMFS本部は日本にあり、世界各地には支部もある。人類の平和はMFSに託されている。
























人食い化け物サカサに4年前、両親を殺されたのが、先程休憩室に居た金髪の少年【神堂(シンドウ) 聖弥(セイヤ)】19歳だ。

孤児となった後はフリーターとしてこのスーパー中村でアルバイトをしている。

「やべえ、落ち、」

「神堂君ちょっと良いかな。契約書の事なんだけど」

たくさんの荷物を運ぶ聖弥を呼び止める店長。

「ーチッ。うっせーな。今忙し、」



ドンッ、


聖弥の横を駆け抜ける眼鏡の中年男性が肩にぶつかり、聖弥の抱えていた荷物がバランスを崩してしまう。

「おわっ?!ちょっ、」



ドスーン!


荷物は全て店長へ命中。そして聖弥自身もスーパーの出入口ど真ん中に倒れる。

「いや〜めんごめんご!今急いでてさ。許してちょ☆」

ぶつかった男性はピースに舌出しで軽く謝るから、短気な聖弥はカチン。

「ざっけんな!ボケッと歩いてんじゃねぇぞクソジジィ!!」

「神堂君」

ポン。聖弥の右肩に店長の手が乗る。

「ー…ペナルティ2回目ね」

「…っス」

「きゃあ!すごいわよ!」

店員や客達の指差した先。其処には先程聖弥にぶつかった中年男性がMFSのバトルスーツを着てスーパーの外へと飛び去っていく姿があった。

「あの団服。さっきのお客様はMFS様だったんだね。…君もご両親がサカサに殺されたのなら、いい年なんだからこんな所でフリーターなんてやっていないでMFSに入隊してご両親の仇討ちをしたら?ま、中卒フリーターの君には到底無理かぁ。はははは!」

店長の嘲笑を、眉間に皺を寄せて睨み付ける聖弥だった。
























事務所ーーーーーーー


スーパーのバックヤードの事務所で向かい合って座る店長と聖弥。

「今は猫の手も借りたいくらいだから君みたいな子でも来月も契約更新してあげるけどね?今日みたいにお客様相手でもカッとなって短期を起こして次ペナルティ受けたら…分かるよね?それとこれ。本部からどうなっているんだ、って言われているから書き直してきて。君って漢字も書けないの?」

全てひらがなしかも幼児がやっと書いたような字で書かれた聖弥の履歴書を広げる店長。

「…書けないっす」

「すぐキレる、漢字も書けないニンゲンの君より優秀なサカサに入れ替わってもらった方が良いんじゃない?」

事務所を出て行った店長の背を睨み付ける聖弥だった。


























そして退勤時間の夕方。

「チッ。このっクソバーコード!!ざけんなよ!!クビにしてぇならさっさとしろっつーのボケ!!」



ドスッ!ドスッ!


従業員出入口の扉を何度も蹴るのは私服姿に着替えた聖弥。

「ホラホラ。店長に聞こえちまうよ」

そんな聖弥を後ろから呼んだのは、同じ部門で働くアルバイト【田中(タナカ)】68歳。白髪で背が低く小太りでいつも優しい目をした穏やかな女性だ。どら焼きを一つ差し出してにっこり笑む。

「大丈夫。クビにするならとっくにしているさ。神堂ちゃんが居ないと店が回らないよ。ホレ、おやつあげるから元気出しな」

ぶすっとしながらもどら焼きを受け取る聖弥。

「それより今から帰りだろ。気を付けなね。如月区でサカサが出て2人も食われたってね」

「…俺は大丈夫だし」

くるっ、と背を向けて先に店を出る。

「あんたは自分の心配してろよ。ババァなんだから」

「あたしも大丈夫さ」

「あーっそ。それより明日ちゃんと出勤しろよ」

「はいはい。先週シフト代わってくれた代わりだろう。本当気を付けなね」

「うっせぇな。大丈夫だっつーの」

反対方向に夜の街を歩いて行く聖弥と田中だった。






















如月区、繁華街ーーーーーーー


「知ってる?昨日サカサが出たんだって!」

「先週もこの区に出たじゃん!最近多いよね!?」

「東京の中でサカサが一番出ないから引っ越してきたのに意味無いよな」

行き交う人々の中を、ジーンズのポケットに手を突っ込み、もう片手でどら焼きを眉間に皺を寄せながら見て歩く聖弥。

「田中のババァいつも食いモンかよ。またあいつにやるか」

鞄の中へしまい、両手をポケットへ突っ込み、横断歩道の信号を待つ。

「こんばんは」

「?」

左隣りで同じく信号待ちをしている黒いパーカーのフードを被った少年から声を掛けられ、そちらへ視線を向ける。

「超レアだよね。初めてじゃない?でも手を出しちゃダメだよ。ボクの獲物だ」

ーーは?何?俺に話し掛けてんの?つか誰こいつ。無視しとこーー

すると、聖弥を覗き込んでにっこり微笑む少年は青い短髪、真っ赤な瞳は瞳孔がぐるぐる渦のようで、左目の下には赤い傷跡。不気味なその笑みに、聖弥は少年からあからさまに離れて顔を背けた。

ーーぜッッてぇキ●ガイだ。信号青になったらダッシュで逃げよーー

そんな聖弥の様子に首を傾げる青髪の少年。

「?」



パッ、


すると、歩道の信号が青に変わった。

少年の真っ赤な瞳に映るのは、横断歩道の向こう側で同じく信号待ちをしている、プレゼントを抱えた長い白髪(はくはつ)の1人の少女。少年は、嘲笑う。

一方の聖弥は待ってましたとばかりに青信号を瞳に映す。

ーーダッシュで逃げ、ーー



ヒュン!


すると少年は誰よりも速く…いや、速いなんて言葉では表せないくらい、長い横断歩道の反対側まで一瞬で飛んで行った。

「…は?」

「なにあいつ?飛んでる?!」

「おい見ろよ!あいつってまさか…!」

街の人々が驚愕する中、一瞬で反対側に居る白髪の少女の前に辿り着いた少年。少女の目の前には、逆さになって宙に浮かぶ少年。

「や〜っと会えたねぇ。あれ?そのプレゼント…。あ〜はいはい、そうね。でもそのプレゼントも着ている服も身体を造る食べ物も、贅沢三昧の楽しい毎日も、お嬢様でいられるのも全〜部ボク達を殺して得たお金のお陰なんだよね。それについてはどう思っているのかなぁ〜」

少年の真っ赤な瞳が見開き、口は裂けそうな程笑った。

「れ〜いな♡」

「ひっ…?!」



パァン!


すると上空からの攻撃で少年の左腕が吹き飛んだ。























ゴトッ、


生々しい鮮血を噴き出す少年の左腕が少女の足元へ転がる。

「ひぃ…!」

「やば…!」

「何だよあいつ?!」

「まさか…!」

しかし少年は左腕が吹き飛んでも全く動じず、暢気に立ち上がる。

「どっこいせ、っと。やめてよね〜利き腕なのにさ。超〜痛いんですけど〜??」

攻撃が降ってきた上空を不気味な笑顔で見上げる少年。ビルの屋上には、街を見下ろす白いバトルスーツを着た老若男女MFS隊員4名の姿が。

「皆さん直ちに避難して下さい!こいつは我々ニンゲンの皮を被った、存在してはならない人食いの化け物サカサです!!」

「高い所からご高説ど〜も。顔があるってだけでどうしてこうもキミ達ニンゲンってのは…」

「!?」

次の瞬間、遥か上ビル屋上に居る4人のMFS隊員の前へ一瞬にして移動して逆さまに浮かび、不敵な笑みを浮かべる少年。

「速っ…!?」

「弥彦と佐藤は民間人の避難誘導を!」

「はい」

「そんなに偉そうなのかなぁ?!」



スパン!


少年が右手人差し指を隊員達へ振りかざせば、すぐ傍のビルが真っ二つに割れた。寸のところでバリアを張った為免れたMFS隊員。




























一方地上では、眼鏡をかけた青年隊員佐藤が市民の誘導中。

「此処は戦闘域に入ります!我々MFSの指示に従い、避難して下さい!!」

「戦闘?!如月区はサカサが出ない一番安全な区じゃなかったの?!」

「ばきゅーん♡」



ブシュウウウ!!


「ぐああああ!!」

いつの間に居たのだろう。背後から現れた少年が人差し指をかざせば、佐藤の左腕が血飛沫を上げて吹き飛ぶ。

「ヘ〜イ!貰〜らい♡」

その腕をキャッチする少年。

「MFSが圧されているぞ!逃げろ!」

「嫌だ!死にたくない!」

「押さないでよ!」

逃げ惑う人波の中、白髪の少女だけ流れに逆らって走っていた。その先には、蹲る佐藤。

「4VS1とか卑怯だな〜。ま、負ける気ゼロりんなんだけどね〜」

佐藤の左腕をもぐもぐ食べる少年。

「!」

その瞳に映ったのは、片腕を失い蹲る佐藤へ駆け寄る白髪少女の姿。

「あれま〜?」

























「大丈夫でして!?」

「なっ…?!何故こんな所にお1人で…?!お嬢様は来てはいけません!自分に構わず早くお逃げ下さい!」

「ごめんなさい!わたくしが皆さんに内緒で1人で街へ出かけたせいで…!」

「馬鹿だねぇ〜。お前のそういう行動がMFSを殺しているんだよ」

少女の左横に逆さに浮かびながら笑む少年。



ドガァアアン!!


しかし次の瞬間、強大な攻撃を受けた少年。

「きゃああ!」

爆風に巻き込まれ、少女まで吹き飛ばされてしまうのだった。



























一方、再び上空へ移動したMFS隊員達と少年。

1人の大柄で右腕には部隊の隊長の証である腕章をつけた中年男性剛田が、少年と対峙する。

「お嬢様に近付くな!話し掛けるな!貴様ら化け物が同じ空間で呼吸する事すら許されない!」

「さっきからギャアギャアご高説ばっかりでさぁ」

先程の爆発が直撃して血塗れの少年から今までの余裕の笑みは消え、今は怒りに満ちている。

「ボクこそが話し掛けるべきなんだよ。何も知らないガキがさぁ〜。あ"ーー、あ"ーー、」

「…くるぞ!増援が来るまで気を引き締めろ!」

少年の腕がくっつくと、



バキッ、ゴキッ、


背からは蝶の黄色の羽がみるみる生えてくる。そして、サカサ特有の怒りに満ちた時に瞳に現れる十字模様が浮かび上がっていた。

「うるせぇんだよニンゲン」






























その頃ーーーーーーー


「きゃあああ!」

「早く逃げろ!!」

「押すな!」

「私が先よ!」

逃げ惑う人波の中。聖弥も流れに乗って逃げていると。



ドサッ、


足元に一つのプレゼントの箱が転がってきた。拾おうと屈む。

「待って下さいな!それはわたくしので…!」

白髪の少女が駆け寄り、顔を上げる。

「…!!」

少女の紫色の大きな瞳と聖弥の瞳が合った瞬間、聖弥の脳裏で駆け巡る記憶。そこには今より幾分幼い白髪の少女がこちらへ微笑みかける姿があった。

「…あ、」

「あーっ!!」

「?!」

大声を出して聖弥を指差す少女。

「やっとまた会えましてよ!!わたくしずっと探しておりましたの!ずっとずっとお会いしたかったですわ!これはきっと運命でしてよね?!」

頬を赤らめ瞳を輝かせる少女に、聖弥の頬も赤く染まる。照れ隠しなのか口をへの字にしてツンとしているけれど。

「…それマジで言ってんの?」

「マジですわ!!」

「〜〜!!」



ドンッ!!


ビルの上空からまたも爆発が起きた。

「やべぇな。此処から離れねぇと」

「はい、きゃっ?!」

人波に押された少女は背を押された衝撃で、聖弥へ偶然抱きつく形になってしまった。

「あ、ごめんなさいっ。どなたかに押されてしまい…!」

「……」



スッ、


「あひっ?!」

クールな顔をして少女から体も顔も避けた聖弥。だから少女は体勢を崩してしまう。しかし少女に背を向けた聖の顔は真っ赤。

ーーわーー!!わーー!!ーー

偶然とはいえ突然抱きつかれて頭の中は大混乱。

「行くぞ」

「て、手を繋いでくださる?!!」

「あァ??!何でだよ?!」

ーー殺す気か?!ーー

色んな意味で。

「せっかくお会いできましたのにはぐれてしまいますでしょう?!」

聖弥は自分の左手を切なそうに見つめて…

「右!」

「?」

右手を差し出した。

「…?どちらでも宜しいですけれど…」

聖弥の骨張った大きな手と、少女の小さく白い手がゆっくり近付いて触れ合うまであと少し。



パシッ!


「?!」

「あっ…?!」

その時、2人を引き裂くように皺々の左手が2人の手を払った。それによって引き裂かれた2人は互いに逆方向へ人波に飲まれていく。お互い手を伸ばし合うも虚しく、互いの姿は人波に飲まれてだんだんと見えなくなり、やがて見失ってしまうのだった。

「貴方っ…!」

「お嬢様!」

ガシッ、と少女の左肩を掴んだのは先程の剛田隊所属金髪の若い青年MFS隊員弥彦。

「此処はサカサとの戦闘域に入りました。危険ですので私と避難致しましょう!」

「…4年ぶりにお会いできた方とはぐれてしまいましたの…」

「…きっとまたお会いできますよ」



ドン!ドンッ!!


ビル街の上空あちこちで爆発が起きる満月の夜の下、バトルシューズの能力で宙を飛ぶ弥彦におぶられながら少女は街を去るのだった。

























一方の聖弥ーーーーーー


「あれ?!あいつ何処行、」



ドスッ!


背後から後頭部を荷物の入ったスーパーの袋で思い切り殴られた聖弥が、振り向く。

「痛ってぇな!ふざけんなよてめぇ、…田中?!」

其処に居たのは、いつも優しい表情しか見せなかったのに眉間に皺を寄せた田中。

「何で此処に居、」

「行くよ!」

「は?!」

ぐいっ。田中の左腕で腕を掴まれると、彼女に引かれるがまま人波の中、如月区の街を去るのだった。




























一方、上空ーーーーーー


MFS隊員3人VSサカサの少年による戦闘が未だ繰り広げられていた。

「んー?」

ふと、少年が後方を見ると弥彦に連れられ去って行く少女の小さくなる後ろ姿が。

「ちょっとちょっと?!お嬢様逃げちゃってるじゃん?!勘弁してよね。やっと屋敷の外に出てきて話せるチャンスなんだから!」



ギシッ、


「!」

少女を追おうとした少年の全身に白く太い糸が絡み付く。

「ヒト斬り糸」

佐藤の能力だ。

「少しでも動けば八つ裂きですよ。貴方をお嬢様の元へは行かせません。何故なら貴方は今此処で…、死ぬのだから!!」



スパン!!


絡み付いた糸が少年の四肢を、胴体をバラバラに斬り落とす。バラバラになりそのまま地上へ降下していく少年を佐藤が1人で追う。

「自分がとどめを刺します!」

その間に隊長剛田はMFS本部へ連絡。

「こちら剛田隊。如月区にてサカサと交戦中。交通規制をかけてくれ」

ヒュン!その時、たった今程少年を追い掛けていった佐藤が背後からもう戻ってきた。

「佐藤?もう奴を始末してきたの?凄いわ、ね"、」



バクン!!


佐藤が無数の赤い瞳が付き緑色をした巨大な触手を繰り出すと、それは口を開き中年女性隊員を丸呑みしてしまった。

「モグモグ」

「ウマイ」

自我を持つのか触手は咀嚼しながらあっという間に食べ尽くす。その光景を、目を見開き唖然と見つめる剛田。

「…貴様…。佐藤ではないな…?」

「嫌だな〜隊長〜。ボクちんどこからどう見ても佐藤で〜す♡」

「佐藤はそんな愚かな口調ではない!!」



ドゴォッ!!


剛田の振り落とした巨大なハンマー。しかし佐藤…否、佐藤を捕食し佐藤に化けているサカサの少年は軽く避ける。佐藤の顔がドロッと溶けると、青髪をした少年の元の姿へ戻る。

「モブの口調まで調べてねーよ!」

「私の部下を侮辱するな化け物!!」

「え〜じゃあモブ様って呼べばイーの〜?てかさっき食べたニンゲンの能力は何かな〜??」

「私の部下の…」

「ん?」

「これ以上、私の部下の姿をするな…!!」

悔しそうに俯く剛田。彼の前には、右半分は佐藤、左半分は中年女性隊員の姿に化けた少年が不敵に嘲笑う。

「私の部下の~…の後。何だったっけ?」

「このっ…!外道がアァ!!」

「どっちがだよ!!」



バシャッ!


「ぐあ"あ"!!」

少年が女性隊員の能力カラフルな液体を剛田へ放てば、液体を喰らった剛田の顔右半分はドロリ溶け出し茶色に腐敗してしまった。

「う"…、ぐっ…!」

「ほう!結構良い能力だね」

「待て化け物!!」
























蝶の羽を羽ばたかせながら上空から地上へ移動し降り立った少年は元の姿へ戻る。

「こんばんはぁ♡」

「ひぃ…!サカサ…?!」

逃げ行く市民に挨拶をする余裕振り。

「お〜い、こっちだよ〜」

追い掛けて来る剛田に地上から笑顔で手を振る。

「きゃあああ!」

「うわああ!サカサだ!食われるぞ逃げろ!」

一方、剛田の無線機に通信が入った。

「剛田!俺達もすぐ合流する!奴相手に1人で深追いするな!」

「出来るかぁ!私は民間人を守るMFSだ!!」



ドゴォッ!!


「なっ…?!」

しかし剛田の振り落とした巨大なハンマーは、少年の触手に捕えられたニンゲンの男女に命中。ニンゲンを盾にした少年は嘲笑う。

「え〜!?MFSがニンゲン殺しちゃマズイでしょ〜?!」

「貴ッ様ァア!よくも民間人を盾に!!」



ギチッ!


「しまった!」

剛田も触手に捕まり、身動きが取れなくなってしまう。

「お父さん…?」

コンビニから買い物袋を下げて調度出てきた剛田によく似た少女が呆然として見上げ、呟いた。剛田の娘だ。

「実久?!何でこんな所に!?」

「お父さんの好きなシュークリーム買いに来たの…」

「ほう!」

少年は顎に手をあてて閃いたように笑む。

「お父さんは大丈夫だから実久は逃げなさい!!」

「嫌よ!お父さんがこんなになっているのにできないわ!!」

「きゅっ♡」



スパン…、


佐藤の能力ヒト斬り糸を使い、娘の目の前で剛田の頭、四肢、胴体をバラバラに斬り落とした少年。白目を剥き、血飛沫を上げ崩れ落ちる剛田。

「お父…さ…、」

「ごめんね〜お父さんシュークリーム食べれなくなっちゃったからさ〜。ボクにちょーだい?」

「死ね化け物!!」



ドスッ!


娘は少年の顔面を踏み付けると、バラバラに転がる父へ駆け寄る。

「お父さんを食べさせないんだから!」



スパン、


「え"、」

少年の左手人差し指が娘を差せば、娘の頭も血飛沫を上げ、父の頭の隣へ転がり落ちた。

「顔が無いだけで化け物扱いするそっちの方が化け物じゃない?あ"〜親子ってウザいな〜」

少年は父娘の頭をまるでサッカーボールのようにリフティングをして、蹴り飛ばす。

「ナイッシュー!」

娘が買っていたコンビニの袋の中からシュークリームを取り出す。

「お腹減った〜。いただきま〜す。んー!美味し!!♡♡」

目を輝かせ子供のように喜んでいると、遠方から複数人のMFS隊員が飛んで駆け付けて来る姿を捉えた。少年はフードを被り直す。相変わらず余裕の笑みで。

「さてと。何かいっぱい来たし夕ご飯の時間だし帰りますか〜」
























「奴はこの先に居るのか!」

「剛田隊長の連絡によればそうらしい!」



ヒュン!


「!?」

1秒前までコンビニの前に居た少年が1秒後にはもう上空を飛んで来たMFS隊員達の真横を飛び去って行く。

「奴だ!いつの間に?!」

「あっははマヌケ〜。またね〜」

「待て!!」



スパン!スパン!!


「ぐあ"あ"あ"あ"!!」

「う"あ"あ"あ"あ"!」

追おうとした隊員達は触手に身体のあちこちを切られ、全員呆気なく瀕死状態。触手は大きな歯を見せて涎を垂らしながら口を開く。

「食ベテ良イ?」

「イイよ〜」

「ワーイ」

「…!」

何かを察知した少年が振り向く。



キィン!!


予想は的中。昼間スーパーで聖弥とぶつかった眼鏡の中年男性MFS隊員が、銀色の槍で少年を攻撃。しかし少年は羽で防御。

「これ以上好きにはさせないぞ!No.9!!」

青髪赤眼をしたサカサの少年の名は【No.9 (ナイン)】

「横田〜!遅いよ〜。さっきのゴリラ、隊長のクセにクソ雑魚でチョ〜つまんなかったんだよ〜」



ドスッ!


「がはッ!」

眼鏡の男性隊員横田の攻撃は尽く回避され、触手の攻撃ばかり喰らい、血を吐く。

一方で触手は横田以外の先程瀕死状態になった隊員達全員を飲み込んでしまった。

「ゴクン!」

No.9は暢気に黒いスマートフォンをいじっている。

「せっかく会えたけど、ボクちん夕ご飯の時間だからさ〜。今度は特級皆連れて来て遊ぼうよ」

「待てNo.9!今日こそお前を捕らえ、」

「またね♡」



ズズズ…、


No.9は手を振りながら、溶けるように闇夜へ消えてしまった。自分以外誰も居なくなった白い満月が光る上空で横田はぎゅっ…!と拳を強く握るのだった。

「くそっ…!」




































同時刻、住宅街ーーーーーー


田中に腕を引かれ、走る聖弥。

「おい!何なんだよ!いいから放せよ!放せって!!」



パシッ!


田中の手を強引に振り解き、街の方へと戻って行く聖弥。

「ざけんな!てめぇのせいであいつを見失ったじゃねーか!」

「あの子は友達か彼女かい?」

「あ"ァ?!」

聖弥はくるっ、と田中の方へ向き直す。顔は真っ赤に、汗をダラダラ流して。

「かっ?!かかか彼女に見えたかよ?!ちちち違げーし!ダチ!…のよーな違うよーな??!」

「どちらでもないただの顔見知り程度のようだね。良かったよ」

「てめぇええ!!」

「神堂ちゃんはもうあの子と関わるのはやめな」



しん…


2人の間に起きる沈黙。聖弥も、言葉が出なかった。いつも優しい笑顔しか見せないあの田中が、眉間に皺を寄せて怖い顔をしているから。

しかしすぐ聖弥はいつもの調子に戻り、中指を立てる。

「ざけんじゃねーぞ!長年の勘とかほざくんだろ?!残念っした〜!あいつも"会いたかった!運命だ!"つってんだよ!だからてめぇに何言われようと関わるんです〜!」

「神堂ちゃん?!そうじゃなくてね!」

「…じゃなきゃ俺は何の為にしたんだよ…」

「…!」

切なそうに自分の左手を見つめる聖弥。

「…神堂ちゃんあのね、」

「近所付き合いに、勤務先スーパーでも穏やかで人当たりの良い老女。しかしその素性は…」



カツン…、


「!!」

「?」

2人の背後から静かに現れたのは、右側がモヒカンで左側は赤紫色の髪を垂らした白スーツの青年。聖弥は首を傾げるが、田中は青年に見覚えがあるのか険しい表情になる。

「他者から奪った人生は楽しいかドロボー猫。…田中幸恵さん捕食の罪で貴様を処分する!!」

「田中幸恵捕食って…!?ババァお前まさか…!?」

「その通りさ少年。可哀想に。そのドロボー猫に騙されていたのさ。直ちに此処を離れたまえ。…だがドロボー猫とは何やら親しい様子だな?もしや少年…」

青年は聖弥を指差す。

「君もサカサでは?」

「は?は?!ざけんなよ!違げぇに決まってンだろ!目ぇ腐ってんじゃねぇのお前?!」

「この子は違うよ!ニンゲンさ!!」

「うるせぇんだよぉおお!!」



ドスッ!


青年は聖弥の顔面を蹴り上げた。

「神堂ちゃん!!」

「くそっ…!」

「俺が嫌いなのはサカサとガキな。あ〜分かった分かった。ガキてめぇはニンゲンな。けどMFSの俺様に対する口の利き方がなってねぇから躾てやる。このババァ殺すまで其処で正座して待ってろクソガ、」



キィン!


「!!」

田中はトンボのような4枚の羽を現すと、黒く長い爪で青年を攻撃。しかし青年は回避してしまう。






















初めて見る田中のサカサ姿に聖弥は驚愕。

「ババァやっぱりマジで…!?」

「てめぇらは相変わらず汚ったねぇ羽だなぁ!」

黒地に白い十字架が描かれたコンパクト型の変身装置を取り出した青年は、赤紫色の光に包まれると一瞬にしてMFSのバトルスーツ姿へと変身。

「その羽散り散りにもいでやるぜ」

「あのモヒカン、マジでMFSだったのかよ…」

「神堂ちゃん帰りな。ごめんね。同僚がサカサで驚いただろう?」

其処には、ニンゲンを捕食したとは思えないいつもの優しい笑顔の田中が羽で宙を浮かんでいる。

「…あ…、…、お、おう!マジだぜ!ふざけんなよなサカサババァ!てめぇのせいで俺までモヒカンから疑われてクソ迷惑したぜ!」

「だろう。ニンゲンの子を巻き込みたくないからね。早く帰りな」

にっこり笑顔の田中。対照的に聖弥はどこか不安そう。田中に言われた通り、閑静な住宅街を走り去るのだった。

田中…否、【No.2 (ツー)】と対峙する青年。

「No.2が羽を見せて正体を現して戦う程逃したい…か。なら尚更あのガキも怪しいな。諸共殺してや、」



ヒュン!


田中の剣のように鋭利な爪が青年の鼻の上に切り傷を作った。田中の瞳に十字の模様が浮かび上がる。

「そうやって年老いた女の事ばかり2年も追いかけているから、恋人の1人も出来ないんだよ坊や!!」

「じゃあ出来るように今日で追いかけっこを終わらせてやるよ化け物!!」

































その頃ーーーーーー


「はぁ…、はぁ…」

如月公園入口まで逃げて来た聖弥。

「まさか田中のババァがだったなんてな…」

『ニンゲンの子を巻き込みたくないから早く帰りな』

「……」

田中の言葉を思い出し、唇をキュッ…と噛み締める。ふと、気付いた聖弥。

「つか、この公園って…」

一歩、如月公園へ、足を踏み入れた。

「名前ってのはさァ」

「!!」

公園のベンチには田中と対峙していたMFSの青年が既に腰掛けているではないか。

「親が子に"こうなってほしい"と願いを込めてつける意味有るモノなんだ」

聖弥の表情が曇る。そんな事お構い無しに立ち上がる青年が喜作に近付いてくるから、聖弥は一歩下がる。目を合わせられない。

「あぁそうだ。さっきのサカサは殺したから安心したまえ少年!」

「マ…、マジっすか。あざっす」

「奴はNo.2といって古くから生き延びているしぶといサカサでね。俺は奴を2年も追って、今日ようやく始末できたのさ」

「へ、へぇー…」

「それにしても…ははは!"幸せに恵まれる"田中幸恵さんの名前を奪った顔も名前も無い化け物ごときが幸恵さんの名前通りの生涯を送れると信じていたと思うと笑いが止まらなくてね。はははは!汚らわしい化け物ガ幸せに恵まれたいだなんておこがましいよな。顔も名前も無いサカサは生きていて良いはずが無い。そう思わないかい少年?!」



ブンッ!


堪らなくなった聖弥が右手拳を青年へ振り上げたのだが、青年は一瞬にして消えてしまった。

「?!」

「やっぱりな。お前みたいに無礼で今時のクソガキは、ニンゲンだろうがサカサだろうが…」

「消えた?!何処に、」

「煽り耐性無さ過ぎなんだよ馬鹿が!!」

青年は聖弥の頭上に飛び上がっていた。ようやく気付いた聖弥が振り向くが…、



ドガッ!!


「ぐあ"っ!!」

うつ伏せに倒され背中に乗られた。両腕は掴まれ、何度も何度も殴られる聖弥。

「煽られてキレて俺を殴ろうとしただろ?!ならサカサの証明をさっさと出せよ?!目でも良いぜ?!サカサの証明が無いと俺らはお前をぶっ殺せねぇからさァ?!早く出せよぉ!!」

「ざっ…、けんなよ…、てめぇ…!!」

「何が何でも隠し通すか。意外に根性あるのな。つまんねぇ。…ぶん殴っても口を割らねぇならお前の女に言うか。"君の彼氏はサカサだよ〜騙されているよ〜"つってな」

「!!」

目を見開いた聖弥の脳裏に浮かんだのは、街で出会った白髪の少女の姿。



バサッ、


「?」

音がして青年が振り向く。其処には、まるで天使のような白い羽を右側だけ生やした聖弥が立っていた。その瞳には、No.9とNo.2が怒りを顕にした時に見せたサカサ特有の十字の模様が浮かび上がっていた。

「きたきたきたぁ!!」

「絶ってぇ言わせねぇぞクソニンゲン!!」




























同時刻、如月街ーーーーーー


人気の無い街を一台の黒いリムジンが走る。車内では不安そうに車窓の外を眺める白髪の少女。

「お嬢様」

車を運転するミントグリーンの髪色をしたMFS隊員隊長の女性が話し掛ける。

「No.9の襲撃による犠牲者は0との本部からの情報です」

「あの方も無事避難できましたのね」



ガガーッ、


するとノイズ混じりで無線機に通信が入る。

「如月区3番街如月公園にサカサ出現。田端隊浅月中級隊員が交戦中との報告」

「まあ…!」

少女はまた不安そうに夜空を見上げた。

「既にお家へお帰りになられていると良いのですけれど…」

































如月公園ーーーーーー


「マジかよお前。サカサのクセに能力何も持ってねーのな!羽も片方だけだしよ!欠陥品か?お前みたいなサカサは初めてだぜ!ははははは!!」

隊員の青年浅月に言われる通り、何かしら一つは生まれ付き能力を持つサカサだが、何一つ無い聖弥。無数の巨大な黒い釘で攻撃してくる浅月に対して公園の雲梯を圧し折ったパイプで応戦するも、全く歯が立たず追い込まれてしまう。塀を登って逃げようとする。

「俺はさぁ」

「!」

しかし先回りされてしまい、目の前には浅月が。



ドスッ!


「がはッ…!」

無数の釘が突き刺さり、聖弥はまるで昆虫の標本状態。

「昔からクズ虫を標本にするのが趣味なんだよなァ!!」

身動きのとれなくなった聖弥のウェストポーチから財布を取り出す。

「キャッシュカードに給料明細ね〜。一丁前に2万も入れちゃってなぁ。顔も名前も無い化け物がニンゲン様の真似事してんじゃねーよ!人食い野郎!」

「それはてめぇらが、顔がねぇだけで俺らを化け物扱いして殺すからだろ!!」

「だからニンゲン食ってその皮を被るってか?畜生以外の何者でもねぇな。顔のねぇ化け物なんてぶっ殺されて当然だろ。皮被って真似事してニンゲン様に憧れてるんだろ。滑稽だな」

「化け物扱いされててめぇらに殺される毎日にビビって、だからニンゲンの皮被れば人食い言われて!じゃあ俺らはどうやって生きろっつーんだよ!!」

「生きる?化け物の分際でおこがましいな。サカサは全員死ねって事だよ」

聖弥の目が見開く。

「にしても随分イケメン食ったな〜。サカサ被害者は美男美女ってのはマジだな。俺も狙ってんだろ?」

「ねぇよクズが!死ね!!」

「しかし彼女も被害者だよなぁ。彼氏がサカサだなんて知ったらよ」

「あいつには絶ってぇ言うんじゃねぇぞ!!」

「はっ!お前ガチで彼女いたのかよ?お前がサカサの証明をなかなか出さねぇからはったりかましただけだっつーの。鏡を持ってねぇ時は疑わしき相手にはこう対応しろ、ってな。若い奴には"恋人にバラす"。年くってる奴には"伴侶にバラす"っつーはったりかませってな。はったりだっつーのに馬鹿正直に正体現してくれてありがとなァ。自分で自分の寿命縮めてアホの極みかよ!いくらニンゲン様の真似事したって所詮低知能化け物かぁ。ははははは!」

「うるせぇ!!」

「ま、彼女がお前の正体を報らされる頃、お前はもうこの世には居ねぇから安心しろよなァ?!」

「ざけんなよ!やっと会えたのに…!じゃあ俺は何の為にこいつを食ったんだよ!俺は…!」

聖弥は死を覚悟し、目を強く瞑った。

「珍しいね」



スパン!


浅月の右腕が血飛沫を上げて吹き飛ぶ。

「あ…、がっ…腕…がっ…!!」

「店長にもお客さんにも喧嘩を売るいつも強気な神堂ちゃんが諦めちゃうなんて。あたし達はMFSに毎日命を狙われる生き物なんだから、しぶとく長く生きていかないと」

聖弥がゆっくり目を開くと其処には…

「田中のババァみたいに、ね」

血塗れの顔があちこちボコボコに凹んでいてもいつものように優しく微笑みかける田中が居たから、聖弥は切なそうに唇をキュッ…と噛み締めた。

























聖弥の身体に突き刺さった釘をとってくれる田中。

「…田中。俺がサカサだっていつから気付いていやがったんだよ」

「神堂ちゃんがバイトに入ってきた日からだよ」

「4年前から?!」

「だから今日言っただろう。"サカサが出たから気を付けて帰りな"って。サカサが出たイコールMFSが街に来ているから、って察してくれると思ったんだけどね。真っ直ぐ帰らないからMFSに遭遇してこんな目に合ったのさ。全く」

血塗れの田中を見つめて聖弥は相変わらずジーンズのポケットに両手を突っ込んだままだが、頭を深く下げた。

「…悪りぃ」

「何言ってんだい!孫みたいな子を助けるのがババァの役目さ!神堂ちゃんはサカサに気付けないからあまり食べていないのかな?随分若いようだけどNo.はいくつだい?」

「No.666」

「おや若いねぇ。それと能力が無いみたいだし片羽だから、ここはあたしに任せな。能力が無いのと片羽は生まれ付きかい?」

「これは…」

「死に損ないのババァがぁあああ!!」

片腕となりながらも浅月は無数の釘で2人へ襲い掛かる。

「死ね死ねぁああぁ!!」

「無能の神堂ちゃんは戦闘の邪魔だから今度こそ帰りな!良いね?!」

「無能じゃねぇ!理由があンだよ!!」

浅月と田中は空中戦になり、如月公園から遠く離れていく。その小さくなっていく背をせつなそうに見つめながら聖弥は声を上げた。

「ババァ!!」

「?」

「先週代わってやった分の明日のシフト!絶ッてぇ出ろよ!休んだって絶ッてぇ出てやんねぇからな!!」

「任せな!」

田中は、小さくなる聖弥の背を見下ろしながらふふっと笑んで呟いた。

「全く。素直じゃないねぇ」



































ストン…、


再び如月公園入口に降り立った聖弥は、一歩一歩踏み入る。公園の中央部まで来ると、ピタッ…と足を止めた。足元の水溜りに映る聖弥の姿は逆さだ。

…4年前サカサに両親を食い殺された神堂聖弥。…そう。これは両親を殺された神堂聖弥がサカサに仇討つ物語ではなく…自身も食い殺された神堂聖弥の皮を被った【No.666 (スリーシックス)】の物語。




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