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アイドルと灯台下暗し


 身体の節々がこれでもかと重い。昨晩は全く眠れなかったし、ご飯も喉に通らなかった。一体何年ぶりだろう。この心が空っぽになる感じ。


 これが、土俵に立つ前に勝負に負ける......というやつか。


 やはり、1限目は隣にいるこのバカに出席を任してサボっておくべきだったとつくづく思う。

 実際、もう授業開始の約5分前にも関わらず、見渡す限りでは大教室でする講義の割に人が明らかに少ない。まぁ、それでもそれなりの数はいるのだけれども。


 それに、何も考えずに隣のこのバカに合わせて座ってしまったせいで席取りも完全にミスってしまった。別に窓際は嫌いではないが、ここ。普通に陽が直接顔にあたってしまうから眩しい。


 「うーん、やっぱりいねぇのかな?」

 

 そして、まぁいつも通りなのかもしれないが、隣のこのバカは朝から一体何なのだろうか。

 落ち着きのない様子でさっきから教室中をまたキョロキョロと。今日も行動がもう明らかにうるさい。と言うか、こいつにしてはらしくもなくやけに前の方に座ったと思う。

 

 「どうした」

 「いやー、愛華ちゃんいないかなーって。ほら、この講義ってかなりの人数が受けるじゃん。それこそ他の学部の奴らとかも。だからもしかしたらいるかも知れないと思ってたんだけど。やっぱこの大学じゃないのかなー」

 「なんだ。お前はまだ言っているのか。昨日も言ったけど、そもそもいたとしても俺達ではわからないと思うぞ......」


 そういうことか.....。

 それにもし仮にいたとしたらだ。絶対にもっと騒ぎになっているはずだ。

 ならないわけがない。

 なっていないということはやはりそういうこと。

 

 それよりも俺はこっちを見てニヤニヤとしている周りの奴らの方が気になる。


 もうミスターコンテストの出場は正式に辞退となったはずなのだがな。

 まぁ、インパクトは確かにあったみたいだからその名残か。こっちは別に時間が解決する問題だろうし。どうでもいいな。


 ただ、あのババアの目的が何だったかに関してはいまだに気になる......。あまりにも意味がわからなさすぎて正直気持ち悪い。


 「いやいや鉄也。例え変装していたとしても俺なら絶対にわかるはずなんだ。愛華ちゃんはもうオーラからして一般人とは違うんだよ。あの全ての人間を虜にするであろう魅惑の瞳。そしてそこから繰り出される最高の微笑みは全人類の宝だ。まさに女神! 彼女は現代に舞い降りた天使エンジェルなんだよ! 俺の青春時代の全てだったんだよ! わからないわけがない」

 「あっそ」


 何かバカがいきなり大きな声で熱弁をしだした。うるさいからスルーに限る。

 それに天使なんていない。それを昨日、俺はある女の子からしっかりと学んだ。この世には結局イケメンに目を輝かせる女しかいない。


 ガタンッ


 って、ん? 何かが落ちた音と共に足元にペンが転がって.......。

 後ろからだろうか。とりあえず可愛いらしいペンが机の下に。


 水瀬()? ペンに名前が書いてる。今どき珍しいな。


 「これ、落としました?」

 「あ、ありがとうございます」

 「って、昨日の......」

 「あ、ど、どうも.......」


 そして俺の振り返ったすぐ後ろの席には昨日の........素朴で優しそうな感じの新入生の女の子? 相変わらずその小さな顔に対しては大きめの黒縁眼鏡をした女の子が座っている。


 「なぁ、鉄也。昼飯の時にさ。他の学部の学食回ってみねぇ? もしかしたら愛華ちゃんがいるかも」

 「嫌だよ。めんどくさい」


 それにしても何だろうか。挙動不審? 何故だかわからないがすぐそこにいる彼女の目が泳いでいる様に見える。それとも気のせいか?

 まぁ、どっちでもいいが。

 

 そういえば昨日の俺、彼女に確か変なこと言ってしまったな。

 人生の出口を俺に教えてくださいとか何とかかんとか。

 完全に変な奴だと思われているに違いないだろう。そしてその変な奴の隣には、さらにこのうるさい変な奴だろ。


 それは目も泳ぐか。

 

 「え? なになに? 彼女と知り合い」

 「いや、別にちょっと昨日道を聞かれただけだから」

 「え? ってことはもしかして新入生? ねぇねぇ愛華ちゃん見なかった? 例えばオリエンテーションとかで。あのすっげー可愛いアイドルの愛華ちゃん。もしかしたらこの大学にいるかもしれないんだ。ニュースで話題になってただろ? 大学に進学するって!」


 あぁ、色々と恥ずかしい。

 目の前の彼女は、こいつのせいもあってなのだろう。さっきよりもさらに目が泳いでいる様に感じる。いや、どう見ても実際に泳いでいる。

 

 でも、彼女は確か昨日、よく覚えていないが誰かを探していたよな。プロのバンドマンだったか。

 無事に会えたのだろうか。おっかけ的な?


 「へ、へぇー、ちょっと見てないですね。違う大学に行ったんじゃないですかね」

 「ぐあー、やっぱりそうかなぁ? いや、俺はまだ諦めない。諦めたら試合終了だから! 本当に、本当に見てない? ほんとは知ってたりするんじゃないの?」

 

 しかもまだグイグイ行くかこいつ。

 いい加減にしないと、さすがに........

 

 これ。大丈夫だよな。さすがに泣いたりはしないよな。

 いや、これはちょっと


 「おいバカ。お前もうその辺にしとけ。知らないって言ってんだからそれ以上、迷惑かけんな」


 本当に。やりすぎだ。

 ただ、それにしてもこの子。やはりどこかで........。


 あと、さっきから思っていたけど。

 この娘やはり、かなり大きくて綺麗な目をしているな。何だろう。これが俗に言う見ていると吸い込まれそうな瞳とでもいうのだろうか。


 「あ、あの、すみません。私の顔に何かついてますか? ち、ちょっとそんなに見られてしまうと恥ずかしいと言いますか」

 「いや、何もついていない。申し訳ない」


 いや、これ俺もやっぱり隣のバカと同類に思われているな。絶対に思われている。

 

 駄目だ。普通に俺の方が泣きそう.......。


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