ライブハウスと超困惑するバカ
ふぅ、やりきったー。
しかも、夏乃ちゃん。俺のことめっちゃ見てなかった? 見てたよな。
もしかして俺、才能ある? 他の観客も心なしか良い意味で俺の存在に集中していたような気がするんだよなぁ。
にしても、鉄也のやつ。あいつ、俺に嘘をつきやがったな。何がギターに合う曲だよ。
時間的にギリギリだったから事前に曲を確認できていなかったってのもあるけどよ。どういう曲だあれ?緊張もあってか全く覚えていないし、耳にも頭にも何も入ってこなかった。ただギターに合わなかったことだけは確実に俺にもわかった。いや、そもそもあの曲にギターの音入ってたか?
ま、ブーイングとかも入らなかったし、達成感はあるからとりあえずはオッケーだけど。
ただ、鉄也に関しては明日説教だな。俺でなければ危うく事故になっていたところ。
ただ、それにしても客の数ってあんなに少なかったか? あと、ライブハウスって裏側はこうなっていたんだな。想像よりも全然普通でちょっと落胆。
とりあえず水でも飲んで一服するか。
「よぉ、終わったのかよ。俺は全く聞いていなかったけど。会場がお前のおかげで冷めていたことは間違いなくわかったよ。あと、この際だからお前にはっきりと言っておいてやるけど。夏乃はお前のことなんてこれっぽっちも眼中にないぜ」
「あ? いきなり何だよ」
本当に何だよ。夏乃ちゃんにちょっかいをかけまくる糞イケメンミスターコン野郎......。
何で控室に戻るや否や、疲れているのにいきなりこいつにこんなことを言われなければならない。
俺が何かお前に言ったか? 言ってないだろ。
「いや、自分の顔鏡で見ろよ。明らかに釣り合ってねぇんだからいい加減消えろ。それとも何?こんなことまでしてまだ可能性あると思ってんの? はは、ないない。とりあえずこれから俺は夏乃と夜を楽しむ予定だからよ。お前は一人寂しく帰って寝ろ。あー、興奮してきた。もちろん、夏乃も了承済みだぜ」
くっ、何だこいつ。性格悪すぎだろ。ちょっと顔が良くて音楽ができるだけの分際で何で俺がここまでコケにされなければいけない。何だ? 親が金持ちで、顔も良いから挫折も悔しい思いも何もせずにこれまでずっとぬくぬくと生きてこれたのか? でないとこの傲慢さは説明できない。特にその人をこれでもかとバカにしたような蛇の様にニヤニヤとした笑い方。
糞が。結局、こういう野郎に可愛い子達は喰われていくのかよ。結局は顔なのかよ。
ふざけやがって。
「って、おお! 夏乃。遅かったじゃん。で、どうだった俺の新曲? 良い感じに刺さったろ? で、この後なんだけどさ」
何が外見よりも中身だよ。こんな性格が悪い奴がモテる世の中。結局全て何もかも外見で決まっちまうってことじゃねぇか。んなもん、もうどうしようもねぇじゃねぇかよ。糞がっ。
「え? おい、夏乃? 無視? ちょ、どこ行くんだよ。おい」
本当に何だよこの不公平な世の中。
「ちょっと!」
「あ? 今度は何だ.....よ?」
って、え!? な、夏乃ちゃん!? 何でここに? へ?
「ねぇ、あの曲は誰が作ったの!!! 教えて!! 誰!!!」
え? ちょ、なになになに? 何で夏乃ちゃんの顔がこんなに近くにあるの?
しかも何だよ、そ、その情熱熱な瞳。しかも俺、お、押し倒されて.......?
いや、ちょっと、ちょっといくら何でも積極的すぎないか? こ、心の準備が......
「ねぇ、誰!!!! いいから教えて!!!!!!」
「えっと、た、確か。友達の......昔の知り合い?」
「は? 友達の昔の知り合い? だからそれ誰よ!!! 名前は!!!」
い、いや何だこの彼女の圧。ちょっと怖い。いや、普通に怖い。え? これ、一体どういう状況。
「わ、わからない。さすがに名前までは」
「はぁ!?」
「ひっ、ご、ごめん。夏乃ちゃん。え、本当に夏乃ちゃん?」
何でそんな必死? しかも怖い顔? え、俺何かした? してないよな。は?
しかも、その背後にも何か見たことある顔がいる?
よく教室でみる黒縁眼鏡の地味な女の子と、何か俺を殺す勢いで睨んでくる長髪の女の子?
え? 何で彼女達までここに? みんな俺に用がある系?
い、いや、本当にどういう状況!?
え? モテキ!? で、ではないな。さすがに。
「ねぇ!!!じゃあその友達の名前は!!!!!!!」
「ひっ、お、大室鉄也。鉄也です!」
にしても本当に誰? え? 夏乃ちゃんの皮を被った誰かなのか!?
いつもの愛想のいい笑顔は? いつもの甘い声は? な、何でそんな。
いつもの夏乃ちゃんじゃない。ほ、本当にどういうこと?