小さなライブハウスとトップアイドル達
はぁ、期待外れも期待外れ。
今回はもしかしたらとも思ったりもしたんだけど、やっぱり駄目だったか。
それなりにハードルを上げてしまった分、落胆もそれなり。
ま、そんな気がしていなくもなかったんだけどね。
でも、だとしても。あれだけ期待させた癖に何? さっきの曲?
高めに見積もってもざっと60点ってところ......。別に悪くはないんだけれど、良い意味でも悪い意味でも量産型でどこかで聞いたことのある様な曲。置きに行き過ぎていて心底つまらないと言ったところ。どんな曲調で歌詞はどんな感じだった?
はぁ、ついさっき流れていたのに全くもう記憶に残っていない。曲より彼の顔にファンが集まったってところかしら?
ま、確かに周りに見渡してみても、あそこにいるドでかい黒縁眼鏡の娘の様な田舎者っぽい子や、あっちにいるやたらと目つきの悪い何を考えているかわからない様な暗い子がファンに多いわね。言っては悪いけれど、普段男に相手にされていない女達がホスト感覚であの顔だけはいい嘘つき男に入れあげているってところかしら。
何かこの後、あいつに控室に来て欲しいとか言われていたけど。まぁ、行くわけない。そもそもあいつの名前って何だったっけ。さっきの曲と一緒で中身がないから普通に忘れた。
ま、こんな小さなライブハウスにはやっぱり出てこないか......。
「ねぇ、君もしかして新入生? 同じ大学だよね。俺3年。なぁなぁ、今から飲み行かね? 実は俺さっきのバンドのボーカルの友達でさぁ。もしよかったら合わせてあげるよ。見たでしょさっきの人気。知ってた?あいつ等プロ間近なんだぜ」
「えー、すっごーい。あの人の友達なんですかー! でも、すみませーん。もうちょっとしたらもう家に帰らなくっちゃ駄目なんですー。パパが門限に厳しくてー」
はぁ、またナンパ。今日何度目?
「いいじゃん。いいじゃん。大丈夫だって。大学生の本分は遊ぶことだよー。パパも許してくれるってー。な、一緒に行こ......ヒッ」
「すみませーん。あんまり身体に触られるの好きじゃなくてー」
「そ、そうなんだ。じ、じゃあまた今度行こっか。じ、じゃあまた」
「はーい。またー」
ったく、誰が誰の許可を得て私の身体に触っているの? 少なくとも人の褌でしか相撲を取れないようなド三流のダサ男が私に触れることなんて許されるわけがない。
まぁ、唯一この私、華見 夏乃の身体を本気で任せてもいいと思えるのはやっぱりあの人ぐらいかな。中々現れてくれないけれど。また私を心底ドキドキ、いやゾクゾクさせて欲しい。一体どれだけ私を焦らしてくれるの?
私、焦らすのは超得意なんだけど、焦らされるのは全然得意じゃないからとにかく早く出てきて欲しい。本当に一体どこの誰なの?
そろそろイライラが常に顔に出てきちゃいそうでヤバいわよ。
「ねぇ、君ひと.....り.....じゃないね。じゃ」
「はーい」
とりあえず、もう本格的にイライラが抑えられそうになりから帰ろっと。周りもさっきのバンド目当てな人たちが多かったのだろう。まだ途中ではあるのにどんどん会場を後にして帰っていく。
これじゃあ次の人が可哀そうね。ま、こういう世界は弱肉強食。帰られたくなければ実力と知名度を頑張って上げることね。
って、次の子、あの子なの......。
いつの間にか、名前は忘れたけど知っている顔が舞台の上にあがっている。
いや、何。そのファッションとサングラス。何がしたいの? と言うか、音楽やってたの?
あ、今思いっきり何かのボタンを押した。
そして、その行動と同時にイントロが流れだしたけど。何? エアギターがしたいの?
な、なら何でピアノの音が思いっきり流れているのにそんなに自信満々にギターを弾いたフリをしているの? 指の動かし方とか見るからにぐちゃぐちゃだし.....。
Aメロに入ったら何か今度は口をモゴモゴとしだしたし。そもそも何で歌いながらマスク?
明らかにあの子が歌っていないのがバレバレなんだけど......。
ん? 本当に何がしたいの? お笑いがしたい的な?
ま、まぁさっきの期待外れな男よりは面白いのかもしれないけれど。ちょっとこれは......。
しかも何故か曲が良さげなのがまたよくわからな.......え?
「うそ......」
何、これ......。
て、訂正する。良さげ?そんな言葉を使ってはあまりにも失礼......。
本当に失礼。
しっかりと聞けば聞くほど尚更やばいことがわかる。もちろんいい意味で。
私の身体もいつの間にかこれでもかと反応している......
さっきまで、目の前のあの子の意味のわからない行動にばかり目が行ってしまっていたけど。
この曲......。初めて聞く曲だけど、私にはわかる。
間違いない。間違いなくこの曲は......。
「何で.......。うそでしょ」