始まりの歌
あぁ、死ぬほど疲れた。その一言に尽きる。
当たり前でしかないが、あんなのを家にあげてしまったのが間違いだった。
嵐が通り過ぎた後とはまさにこのことなのだろう。
まぁ、実際の外は逆に大雨が降ってきているが......。
いや、でもこうなってしまった時点でそれ以外の選択肢はなかったから仕方がなかった。なんせ、あんな変な格好で家の前でうるさくされたら近所迷惑はもちろんのこと、下手をすればここから追い出される可能性だってあるからな。ボロいが家賃が安いここを今追い出されるのはかなりきつい。そして大家は意外にもそういうところはかなりうるさい。要はどうしようもなかった。
にしても、本当にあいつ。冗談抜きであの夏乃って女に本気で堕とされてしまっている。もはや洗脳レベルで。あのバカ、彼女に100万欲しいと言われればすぐに素直にあげるぐらいのレベルで惚れていないか？
さっきも家に入るや否や助けてくれとかいきなり俺に号泣してきやがったし。このままだとイケメンの糞野郎に夏乃ちゃんを取られる。どうしよう。どうしたらいいとか言って。
知るか。男の涙ほどうっとおしいものはない。何だあの捨てられた子犬みたいな顔をしたグラサン。
わざわざ口にするまでもないが、もう普通に取られているぞ。そもそもお前は勝負の土俵にすら立っていない。
まぁ、ギターは普通に貸してやった。案の定、全く弾けないみたいだが......。
あと、あまりにもうるさくて早く帰って欲しかったのと、あまりにも生物として可哀そうで哀れに思えてしまい曲も一曲くれてやった。まぁ、アレは中学の頃に作った曲と言っていいのかもわからないレベルのモノだが。今後のことも考えて昔、実家の近所に住んでいた名前も忘れた兄ちゃんがくれたモノとして渡しておいた。味を占められて何度もこんなことが起こるのは冗談抜きで地獄でしかないからな。
でも、たまたま残っていて本当に助かったと思う。あの思いっきり中2病全開の曲。一応、ギターには合うだろうから。あの曲を流しながらエアギターでもして存分に恥をかいてくれればいい。とりあえず、マスクをしながらマイクの前で口をパクパクさせていればそれっぽく見えるんじゃないか？ とりあえず形になればいいんだろ？ ま、俺はもう本当にどうでもいいけどな。
現にもうそろそろ、あいつが実際にライブハウスで笑われている頃か？
ふん、また泣いて帰ってくる姿が目に浮かぶ。
でも、それにしても騒がしかったな。もう何があろうともあいつは絶対に家には入れん。
はぁ、本当に時間を無駄にした。不本意ではあるが、俺は俺でこっちを早く金にしなければならないというのに。
って、え？
何でさっきあのバカに渡したはずの中2の時に作ったはずのCDがそのままここに.....？
あれ？
そして、この家になければならないはずの俺が結衣ちゃんに向けて作った方の黒歴史が......ない？
「う、嘘だろ」
これって......。
