嵐の前触れは突然に
結局、今日はあのバカは自主休校か。いつもはうるさくて仕方がないが、いなければいないで何か調子が狂うな。
理由は何だったか。昼は何かの準備をしないといけなくて、夜はライブハウスに行くとか行かないとか確か言っていたな。
あいつがライブハウス? そんなキャラじゃないだろうが、いきなりどうした。
もしかしてまた、あの夏乃とか言う女の影響か? 送迎とかそういうことか?
だとしたら本当にバカでしかないな、あいつ。
お前のお目当ての女は朝に引き続き、今もイケメンバンドマンにこれでもかと甘い声で媚びているぞ。
好き好きオーラ全開でまたもベタベタと。
あれは付き合っているのか? む、胸がまた。いや、あれってあの男の角度からなら下着が見えていたり......。
いや、知らんしどうでもいい。知らん。でも、とりあえず会話を聞いている限りでは付き合ってはいないっぽい。
まぁ、あの女がアプローチをかけて、イケメンの方がまんざらでもない感じってところか。
いや、違うな。イケメンの方は完全にもう堕ちているな。あれ。
じゃあ何だ。よくわからん。どういう関係性だ。
とりあえず、俺はそんなことをひとり学食で200円のかけうどんを食べながら考えている。別に他人の会話を虚しく盗み聞きしているわけではない。ただただ勝手に俺の耳にあいつ等の会話が聞こえてくるだけだ。
とりあえず学食でイチャつくな。うっとおしい。
「夏乃。今日のライブは絶対に来てくれよ。お望み通りお前の為に新曲を作ったんだからよ」
「うん。絶対に行く。ねぇ、じゃあやっぱりあの曲は健が作ったってことでいいんだよね!」
「さぁー、どうだろうなー。まぁそれを今日のライブで確かめてくれればいいぜ。一つだけ言えることは絶対にお前を後悔はさせないってことだな」
「やばっ、楽しみすぎる。本当に健ってすごいね。すごすぎる」
何だ。お前の為に曲を作った? どこかで聞いた話だな。
まぁ、ミスターコンテストに純粋に出場するような男だ。あっちは俺と違ってしっかりと成功するんだろうな。何度も言うが、結局は顔なんだよ。顔。
あぁ、益々ムカついてきた。嫉妬ではないけどムカついてきた。嫉妬ではないけれども。
って、何だ。あのバカ兼ブスからLine?
『お前って今日はバイト無くなったとか言ってたよな』
何だ。唐突に。よくわからないがこの感じ。何か嫌な予感がする.......。
『なぁ、お前ってギターとか弾けたりする? いや、最悪弾けなくてもいいから持ってたりする?』
い、いや......。
さすがに嘘だよな。と言うか俺の勘違いだよな。
あいつが音楽? いや、一番無縁の位置にいる男だろ.......。
と言うか、さすがにそんなことは考えてないよな。
いや、いくらバカだとしても........。今日の今日でさすがにそんな......。
い、いや、否定ができないのが怖い.......。
正気か? あのバカ。
そもそもお前は楽器もできないし、歌も下手。ドレミの音符ですら読めるか怪しいレベルだろ。
い、一体何を考えている。いや本当に。