隠れた謎の天才と動き出すアイドル
へぇー、高校卒業を機にアイドルを卒業。そして芸能界に関しては活動を休止。理由は大学に進学してやりたいことがあるから。
何気なく見ていた俺のスマホのネットニュースにはその様な記事が流れてくる。
元人気アイドルの芸能活動休止宣言。実質上の引退宣言というところだろうか。
まぁ、正直な話。全盛期はすごかったが最近は客観的に見ても色々と下火だった様な気はする。
そして、これは特定の者に対しての感想というよりは個人的なアイドル業界全体を見ての感想だ。
「お前って常に昼飯は学食の唐揚げカレーだよなー。飽きねぇの?」
「まぁ、旨いからな」
でも、彼女に関しては客観的に見てもまだ引退するほど人気が落ちている様には見えないし、やはり芸能界引退ではなく何か考えがあっての休止なのだろうか?
まぁ、今の俺にとっては何ら関係のない話ではあるけれども。
「おい、ネットニュース見てみろ鉄也! 愛華ちゃんが卒業して大学に進学だってよ。もしかして俺らの大学に来たりして」
「もう俺も見てるけど。さぁな」
一応、目の前のこいつがこの様に騒ぐ理由もわからなくはない。
確かにあの頃の熱気はすごかった。まぁ、あの頃と言っても2、3年前ぐらいだからそこまで昔というわけではないが、とにかくすごかった。
まさにアイドル戦国時代。テレビやニュースやネット。どこもかしこも、アイドルグループの話題で賑わっていた記憶がある。
特にその中でも火花を散らし合っていた5つのグループがあの頃の日本を動かしていたと言っても過言ではないぐらいに熱狂的な人気があった。
「何がさぁなーだよ鉄也。お前は当時どのアイドルグループのファンだった? 俺は愛華ちゃん一筋だったぜ。握手会、それにもちろんソロコンサートだって行ったからな。実物もマジ可愛かったぜ。それに愛華ちゃんの持ち歌、あれは名曲だからさすがのお前でも知ってるだろ?」
名曲か。
「まぁ知っているけど。ただ俺はあんまどこの誰がどうとかはなかったな」
まぁ、実際のところはものすごくあったけど。むしろ誰よりもあった自信すらあるけれど、絶対に口には出したくない。
「アイドル補正抜きで神曲だったし、異例中の異例で愛華ちゃん一人でその曲で紅白も歌ったんだもんなー。絶対にシンガーソングライターとしての実力もあるのになんで活動休止だよ。もったいねー」
そして何だ。急に早口で話をしだしたぞ、こいつ。
でも、もったいないと言えば。本当に色々な意味でもったいない時間を過ごしてしまったと思う。まさかあんな痛い思いをすることになるとは。
「特にあの年は愛華ちゃん以外にも次々とグループを飛び出してソロでも活躍する人気アイドル達がいたりして本当にすごかったもんなー。本当に」
飛び出した......か。それは本当にそうだと思う。
くっ、理沙の野郎。
実際、思い出したくもないが、愛華ちゃん達とは別に違う意味でものすごい飛び出し方をしたアイドルが確かにいたからな。本来はあの4曲ともその彼女一人、理沙に提供するはずの曲だったし......。
でも、真剣にあり得ないだろ。生まれた時から幼馴染。二人は幼いころにとある約束を交わした。一方はこの日本のトップアイドルになり、もう一方はそんな彼女の為の曲を作る。それが叶った時に結婚しようねと。
そしてそんな夢物語と言っても過言でもない夢がまさかの奇跡的にも叶う寸前だった。もうこれは普通はそのままゴールだろ。自分で言うのも何だが、あいつとの結婚を目標に俺は全てを懸けたぞ。これまた自分で言うのもなんだが当時の高校生にしてあのレベルの曲を作れるのは俺しかいなかったはずだ。将来性も抜群だっただろ。
そ、それがゴール直前にどこの馬の骨かもわからないペラペラの若手イケメン俳優と交際発覚からのアイドル引退?
脳破壊の中の脳破壊。あの時は冗談抜きで脳が爆発した。
そしてむしゃくしゃした俺は彼女のライバル達4人に当てつけの様にそのまま理沙の為に作っていた曲をそれぞれ提供。
大人げない? あたり前だ。なんせあの時は年齢的にも未成年で子供。だから何も大人げなくない。その考えがもはや大人げない? 知るか。
結局は顔か。思い返せば当時もそうだったもんな。俺は高校生天才作曲家として話題にはなったが一度も顔出しも名前出しもしていない。もう辞めたが当時所属していた事務所に顔出しは色々と危険だからとか上手く言いくるめられて俺はよくわからない似ても似つかないイケメンの絵のキャラとして世間に認識されていたからな。
その後にその事務所が俺とは別の作曲家のイケメンを思いっきりメディアに顔出ししていたのも俺は知っている。
「糞が。平凡な顔で悪かったな。イケメンは全員爆ぜろ......」
「え? ど、どうした鉄也。急に」
「いや、別に」
危ない。つい心の声が漏れてしまった。
「それにしてもさぁ。俺ら華のキャンパスライフも2年目に突入だと言うのに何だよ。このうだつの上がらない感じ。せめて何か面白いことでも起こんねぇかなぁ。それこそ愛華ちゃんが本当にこの大学に入ってくるみたいな」
「そうだな」
ま、本当に俺は愛華ちゃんがどうとかは別に何でもいい。
それに万が一入ってきたとしてもだ。どうせ俺達は彼女が彼女であることに気がつかないだろう。そもそもアイドルは皆芸名だろうし。意外にメイクを変えたり眼鏡などで地味に変装されたりするともう誰かわからなくなったりするとも聞く。
理沙も実際にそうだった。
アイドルのあの感じで大学生活なんて目立つし危ないしでまずありえないだろう。
「あ、鉄也はそういえば知ってるかよ。俺らには関係ないけど、公募で選ばれて半年前ぐらいから使われてるこの大学の広報CM。んで今もyoutubeでめちゃくちゃ再生されてバズってるすっげー感動的な歌詞の良曲。あれ実はプロではなく噂ではうちの在校生の作った曲みたいだぜ。リズムもちょうどいい具合に最高なんだよなー。」
「へぇー」
「俺もあんなのが作れたらもっと人生楽しくなんのかなー」
そうか。まだ伸びているのか。
これはいける。今度こそ行ける。
「は? ちょ、待てよ。どういうことだ。愛華ちゃんだけじゃなくて続々と各グループの一線級にいたアイドル達が卒業&活動休止? レイナも? 花楓も? か、夏音まで!?」
そして何だ。またうるさいな。こいつ
「あの頃に伝説的に人気のあった4人が揃って!? し、しかも全員が全員、大学に進学してやりたいことが見つかったぁ!? ど、どういうことだよこれ。おい鉄也。このニュースほんとかよ!?」
「いや、俺に聞かれても知らん。そう書いてあるのであれば本当なんじゃないか?」
何だろうか? そういう卒業からの大学進学ブーム的なやつなのだろうか?
それにしても4人同時はすごいな。よくわからないけど何かの戦略?
まぁ、何でもいいけど。
「ったく、マジで鉄也って高校の頃から冷めてるよな。ひきこもりとまでは言わないけどよー。自宅大好き人間というか。欲を感じないというか。何度も言うけど俺達って大学生なんだぜ。遊ぶなら今しかもうねぇんだから。ほんと家でいつも何してんだよ」
「さぁな」
何をしている?
そんなの曲作りに決まっているだろ。今度こそ俺は。
大学で出会った天使。そして運命の女性。結衣ちゃん。
そう。俺の運命の相手は理沙なんかじゃなかった。全ては結衣ちゃんと一緒になる為に今までの苦労があったのだ。
久しぶりに作った曲だったが、かなり話題にもなっている様だし今度こそいける。計画ではこの曲が1000万再生を超える頃に俺が君の為に作った曲だと結衣ちゃんにカミングアウト。そして告白からのお付き合い。再生数的にもう数日もかからない。
結衣ちゃんは優しいし、人を容姿で判断しない最高の女性だ。
今度こそ俺は絶対に成功させる。
「あー、それにしても4人のうちの誰か一人でもいいから俺らの大学に来てくんねーかなー。あ、そうだ。なぁ鉄也!新入生のフリしてサークルの新歓に潜入。お花見ついでにタダ飯くらいまくろうぜ! それ面白くねぇか? 面白いよな。んであわよくば可愛い新入生の女の子とな。へへっ」
「いや、全く面白くない」
とりあえず、もう少しで俺は結衣ちゃんと。今度こそ。さすがに今度こそはな。
「って、マジか。面白すぎんだろ。お前。正気か鉄也!」
「あ?」
何だ。いきなり大声で。
「お前、何でミスターコンテストにエントリーしてんだよ。お、面白すぎるだろ。今年のミスターコンはただでさえレベル高いって言われてんのに。何で、何で、一人だけイケメンの中に超平凡な顔が。やばい。腹がねじれる。いつも目立たないお前が逆に超目立ってるじゃねぇか。何でこの超イケメン6人にプラスで鉄也が? ハッツハッハッハッ。マジでネタキャラ。らしくもなく身体張りすぎだろ!」
え? ミスターコン? 俺が? は?
「ど、どういうことだ。おい。スマホ見せろ!」
いや、まじでどういうことだよ。
エタらない様に初めてプロットを組んでから書いてみました。
面白い作品を書きたいとは常に思っています。
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宜しくお願いします。