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7/17(日) 葛西詩織⑦

………………


…………


……



 1時間後、葛西先輩をのぞいたみんながリビングに集まっていた。



「そもさん!」


「せっぱ。……ちっ!」


「残念だなたかおみ、それは残像だ」



 野中と音和がカードで戦っている声が聞こえる。何のゲームやってんだあいつら……。


 いちごと七瀬はソファで寄り添い、テレビのバラエティを無言で眺めている。


 部屋の隅に目をやる。ぽつんと置いてあるバケツの中には、夜に使うはずだった花火が入っていた。


 こういう俗っぽいやつこそ、先輩と一緒にやりたかったな。先輩いいリアクション取ってくれそうだし。



「はあ」



 ため息が自然と漏れてしまう。


 ソファで雑誌を読んでいる凛々姉に、ちょっとかまってもらおう。



「凛々姉ー。夏が終わったらようやく文化祭だな」


「そうね」



 凛々姉は雑誌を閉じて、ダイニングチェアに座っている俺のほうへと律儀に顔を向けた。ちょっと疲れているように見える。



「心配?」


「メンバーに心配はない。最強の陣営だと思ってる。ただ……そうね、心配といえば詩織の身体……」



 怖じ気づくよな、あれを見ちゃったら。


 彼女は小さなため息をついて言った。



「無理はさせたくないけど、虎蛇である以上、無理は生じてしまう」


「もちろん力仕事は俺がやるし」


「うん。頼りにしてる」


「あのさ、できるだけみんなでカバーできない? 葛西先輩が辞めるのは嫌だから」



 先輩が病弱なのはみんな知ってた。でも、実際にここまで辛そうなのは見たことなかった。どこかで「大丈夫だろう」って軽く考えていたところがあった気がする。


 でもそのせいで、先輩を虎蛇から脱会させるのは……。高校が楽しくなったって言ってくれた先輩を、またひとりにさせるのは……。絶対にしたくない。



「何言ってんの。辞めるなんて許可しないわよ」



 不敵な笑みを浮かべる凛々姉を見て安心した。怖じ気づいていたのは本当だろうけれど、うちの会長は、そういう子だった。



「あれ、車の音……?」



 ふと声をあげたのはいちごだ。


 同時に、リビングの窓をヘッドライトの明かりが通過した。


 誰か来たらしい。カーテンを開けて暗闇に目をこらす。バタン、とドアが閉まる音がして、車の側で人影が動いた。そしてすぐに玄関が開く音。


 一気に緊張が走る。カギはかけていたはずだから、この家のカギを持っている人物が来たってことで。それってつまり……。



「……詩織先輩のご両親?」



 いちごがみんなの考えを代弁してつぶやいた。



「ちょっと行ってくるわね」



 すぐに凛々姉が立ち上がって、リビングから出ようとした。



「俺も。副会長として行く!」



 肩越しに振り返って俺を見る凛々姉は、眉間に薄くシワを寄せる。



「……まあいいわ」



 よかった、今度は拒否られなかった。



「ただし、あんたはしゃべらないこと。あたしの暴走を止めるのと、殴られる係よ」



 俺の扱いがひどい!!!!


 でもさすがだな、凛々姉。暴走する気、自覚してるんだ。それに、相手に殴られる役も俺が代わったほうがいい。



「わかったよ、凛々姉を守る」


「ん。殴りたくなったときはよろしく」


「あんたが殴るんかい!!」



 抗議を無視して、凛々姉は先にリビングを出て行った。仕方ねーな、いや、全然仕方なくはないんだけど。

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