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7/17(日) 葛西詩織⑥

 そんな平穏な空気が変わったのは、バタバタと騒がしい足音が2階から聞こえたからだった。


 不審に思う間もなくリビングのドアが勢いよく開き、凛々姉が前のめりで入ってきた。



「大変、詩織の様子が……!」



 焦りを帯びた叫び声に、みんなの顔がこわばる。



「芦屋、五百蔵(いおろい)さんを呼んで!」


「了解っ」



 さっきまで笑っていた七瀬の顔が別人のように引き締まり、黙って立ち上がると小走りで部屋を出て行った。



「日野はタオル冷やして持って来て。あとはここで待機するように」



 ぽかんとそれを見つめる音和や振り返って首を傾げる野中、そして皿を手に固まる俺に、凛々姉は眉間にシワをよせたまま声をかけた。


 ……冗談じゃない。



「凛々姉、俺も行く!」


「あんたも待機よ」


「俺、鹿之助さんと合宿前に約束したんだよ。先輩になにかあったら俺が助ける、力になるって!」



 リビングの外で、スリッパの音がパタパタといくつも重なって聞こえる。



「……分かった。来なさい」



 凛々姉といちごが順番に出て行く。その後に続いて、俺もリビングを出た。



「女の子の部屋だし……とりあえずここで待って」



 結局、俺だけドアの前に残された。


 ドア越しに中の音がわずかにだけ聞こえて、たまらなく不安になる。


 あんなこと、言わなければよかった。俺が意地の悪いことを言ったせいで体調を崩したんだ。なんだよ俺。バカじゃねーの、闇を暴いた気になって。ああ、最悪だ。どうか先輩の痛みが早く消えますように……!


 思わず両手を組んで、祈っていた。今自分にできることなんてそんなことくらいしかないのがもどかしかった。



…………

……



「少年」



 声に、はっと顔を上げると、先輩のいる部屋から鹿之助さんが出てきたところだった。



「薬を飲んだし、医者も必要ない。休めば大事に至らないだろう」


「……よかった」


「ただ久しぶりの発作だから、私は旦那様に報告してこなければならない。かわりにお嬢様をお願いできますか」



 スマホを掲げてみせる彼に頷いて、入れ替わるようにしてそっと室内に入った。


 空調が汗をかいていた体を急激に冷やす。6帖ほどの個室に置かれたシングルベッドに、先輩は横たわっていた。室内は涼しいのに汗をかき、目をつむって苦しそうに呼吸をしている。凛々姉が手を握りしめ、いちごが汗をぬぐう。七瀬が隣に来て、そっと耳打ちした。



「さっきまでずっと苦しそうで。やっと落ち着いたの」



 ああ聞いてた。部屋の外まで聞こえてたよ。



「あたしお水持ってくるね」



 七瀬は俺の脇を通り抜けて出て行った。俺は何をしていいのか分からず、ただ突っ立っていた。

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