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5/16(月) 転校生⑤

 虎蛇に行くとすでに全員揃い、俺を待っていた。

 申し訳ない思いを表現しようと、背中を丸め、小さくなって入室する。


 しかし、この若干ピリついた空気は俺が遅れただけが理由じゃない。


 入り口から見て左側。長テーブルの一番奥で会長の斜め前の席に、抹茶色の薄手のカーディガンを羽織った見慣れない女子生徒が、座って本を読んでいた。


 ……誰?


 口パクで『ざ し き わ ら し ?』と会長に聞くと、『黙れ小僧』と早口パクで答えられた。超泣ける。


 音和の隣の手頃なパイプイスに座ると、大げさに息を吐いて会長は突然立ち上った。

 ぎょっとした一同の視線があつまる。



「書記に適任する者が見つかったわ」



 なんだ、新しい書記かー。って、仕事早っ!!



「じゃあ彼女の紹介も兼ねて全員自己紹介をしようかと思う。異論はないわね」



 サクッとそう決めてしまうと、会長は背後のホワイトボードに役職と名前を書き始めた。

 名前を書き終わると前に向き直り、全員を見渡す。


 その目からは強い意志を感じて、俺はもちろん、きっと全員そうだったと思う。会長にまかせようと即座に判断し、静かに言葉を待った。



「虎蛇会長、3年、部田凛々子(とりたりりこ)。今年の文化祭は絶対に歴史に残るものにさせるから。言うまでもなく厳しいわよ」



 はは……。相変わらず高圧的で会長らしいわ……。


 ふと、ぱちぱちと小さな拍手がおこった。見ると新人さんがいつの間にか読んでいた膝の上に置き、姿勢を正して拍手を送っているではないか。


 超いい人。

 俺もそれにならって拍手してみる。



「うん、じゃあ次」



 会長は満足そうに頷くと、きれいな字で次は“副会長”と書いた。



「あい。2年、小鳥遊知実(たかなし ともみ)。よろしくです」



 実行委員への参加は俺の意思じゃなかった。


 廊下で数年ぶりにバッタリ顔を合わせた会長が、5月なのにメンバーが揃わないつって無理やり俺をここに連れて来た。


 さらに副会長という役職も「昔のよしみだ。やれ」という一言で押し付けられた。

 それはもう、有無を言わさぬ勢いで。

 ぜんぜん有志の集まりじゃないのが現状である。


 次に“会計”。



「2年、芦屋七瀬(あしや ななせ)。イケてないことが嫌いです!!」


「っていう、ギャルです」


「えっ、ギャルなのかあたし」


「ギャルは自分のこと、“ウチ”って言うんだぞ。あとU◯Jが好き」


「なにーそのギャル偏見。つかその伏字の部分一番大事だよ! 無邪気or金のにおい!」


「ちなみに、ギャルはどちらも対応してます」


「いつかギャルに寝首をかかれたらいいのに」


「夜這い大歓迎!」



 なぜか意見が合ってしまった。

 そんな俺らのやり取りは無視され、“書記”という文字の下に初めて見る名前が記入される。



「はじめまして。葛西詩織(かさい しおり)と申します。3年です」



 にっこりと微笑んで、新人さんは頭を下げた。

 この人、先輩だったんだな。どうりで見たことないはずだ。


 すごく際立っている肌の白さは漆黒の髪を引き立てていた。大和撫子という言葉がしっくりハマる。手首なんかすぐにでも折れてしまいそうなほど細い。


 この人、儚い。儚さの化身だ。



「1年生、穂積音和(ほづみ おとわ)です。副会長をしっかり助けます!」


「できればみんなを助けて、穂積」



 会長はたしなめながら、音和の名前も記載する。


 ホワイトボードに全員の名前が揃った。

 それを、みんなで改めて眺める。



「「「人、少なっ!!!!」」」



 男いねーし……。

 やっぱり当分の活動は、メンバー集めがメインになりそうだ。



┛┛┛



 グレーがかった街を俺と音和は並んで歩く。中途半端な時間だったからか、俺達たちのほかに歩いている人を見ない。


「知ちゃんー」



 商店街に差し掛かったところで音和が後ろから腰に抱きついてきた。



「おっと。どうした」


「手、つないでいい?」


「だめ」


「ケチ」



 頬をリスみたいに膨らませて悪態をつくが、背中から離れようとはしない。



「ケチとかそういうのじゃなくて。高校生になったらそういうことはしないのー」


「している人いるもん」


「それはカップルだからでしょ!」



 この無防備さ。自分では気づいていないんだろうが、何気に男に人気があるらしい。


 初めてその話を聞いたとき、なんとも複雑な気持ちになった。

 なんというか、こんなヤツが……と思うと同時に、小中学生の頃とは違って、俺たちは大人になりかけているんだなとか。



 成長するのは楽しみだ。俺だってかなり背が伸びた。

 でも同時にどんどん音和と違いが出てくる。

 こうして歩いてるだけでもいやでも“昔とは違う”という部分が見えて、ちょっぴり寂しさを感じるのだ。


 それなのに音和はいつまでも子ども気分なので困る。


 性格はともかくふんわりとしたやわらかい髪や、全体的に小さく、丸い瞳も相成って、小動物を思わせるその風貌。性格を知らなければ、守ってやりたい女子的な位置付けなんだろう。性格を除けばな。



「お前もいつか大人になって、誰かと結婚したりするのかねえ……」



 やれやれポーズをつけて、大げさにため息をついてみせる。


 しかし音和はさも当たり前がごとく、



「あたし、知ちゃん以外の人のものになる気ないよ」



とのたもうた。

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