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7/11(月) 日野 苺③

 しかし……ここで声を大にすることはまずい。ましてや合宿の運命までかかっているというのだから。


 とりあえず、話を合わせておくか……。



「そういえば……行くかも~」



 視線が宙をさまよう。



「え、じゃああたしも行きたい!」



 やっぱり音和の目が輝く。



「ダメだ。自分探しはひとりでしかも自転車でって、相場が決まっているんだ」



 二方向からうさんくさそうな視線を感じる……。



「でも知ちゃん、裏の自転車サビてたよ」


「え、ゲロックス初号機が? マジで!?」


「うん。こないだ借りようとしたらギイギイしてた」


「さ、さすが海の街。潮風の恐怖……」



 あとでメンテしとこ……ショック。



「あら、電車で行くって言ってなかったっけ」



 どんどん設定が広がっていく。電車で行く一人旅って、それただの旅行。



「そっかあ。お小遣い多くないし、きびしいなあ……」



 お? 音和が引き下がった!?



「俺は今までコツコツ働いてきたからなーははは!」



 とりあえずその場を繕っておく。



「あ、じゃああたし、バイト入ります。ごちそうさまでした」



 ずっと黙っていたいちごがチラリと時計を見て、グラスを持って立ち上がった。



「いちごちゃん!」



 母親がキッチンに向かういちごの背中に声をかける。



「差し出がましいかもしれないけれど……家に大人は誰もいないのでしょう? あなたが良ければなんだけど、柊くんも杏ちゃんも、合宿中はうちで預かるわ」


「それはご迷惑です! あたしがここで働かせていただいているのもご好意だし、毎日下の子たちを預かっていただいているのも、お弁当だって! それなのにお給料もいただいて……」



 それで、いちごが元気ないわけがやっとわかった。


 もしかしたら合宿が嫌なのかなとも思ってたけど、いちごは家のことも考えなくちゃいけなかったんだ。合宿に行くなら、他人に頼るしかない。でも、あいつには頼れる人がいないから。



「そんなにしょげ返るなよ、いちごちゃん」



 ひょこっとカウンターから父親が顔を出した。



「俺も仲間に入れてくれ」


「マスター! あ、あのう」


「柊と杏の怪我や病気は気をつけようと思うが。心配かい」


「いえ! ちがくて、えっと、なんで、なんでそんなに……あたしみたいなよそ者に、優しくしてくれるんです……か……」



 テンパって涙目になるいちごに両親は顔を見合わせ、困ったような顔をして笑った。



「学校で知実の面倒を見てもらってるようだしな」


「それは、あたしのほうこそっ」


「それにねいちごちゃん。私たちは、いつも一生懸命で真っすぐで、日だまりのようなあなたのことが大好きなのよ」


「っ……!!」



 息を飲む音がここまで聞こえた。手で顔を覆いながら、いちごは少しだけ後ずさりをした。



「あり、がとうございます。あたし、あたし、あのっ……」



カラン。


 カフェの扉が開く。客が来たようだ。



「し、仕度してきますねっ!!」



 みんなが入り口に目をやったところで、いちごは二階に駆け上がって行った。


 母親が客の応対に行き、父親はウインクしてキッチンに戻る。



「日野さん、来れるといいね」



 ぶっきらぼうにぽつりと、隣で音和が言った。

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