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7/11(月) 日野 苺②

 帰宅して店に入ると、客入りはまばらだった。どうやら今日は暇らしく、話を切り出すにはタイミングがよさそうだ。



「あらあら、お帰りなさいみんな。お茶でも飲む?」



 キッチンから母親が出てきて、テーブルに案内してくれた。



「いちごちゃんも今日はこんなだし、ゆっくりしてからでいいわよ」


「ありがとうございますっ」



 3人でテーブル席に座る。すぐにグラスが目の前に置かれて麦茶が注がれた。


 汗だくで乾き切った喉を一気に潤し、ふううう。と、深い息をつく。母親は笑いながら、再び麦茶を注いでくれた。



「もうすぐ夏休みだけど。いちごはバイトどれだけ入るの?」



 まあ、善は急げということで。俺の問いかけに、母親は不思議そうな顔をした。



「いちごちゃんが入れるだけでいいわよ?」


「あれ? 毎日じゃなくていいの?」


「もちろん毎日でもうれしいんだけど、 夏休みはもうひとり、アルバイトさんを探そうと思ってるのよ」



 今度はいちごに向かって優しく語りかけた。


 実際に働いていたから分かるのだが、夏休みの忙しさは平日の比ではない。


 去年3人で回していたときは休憩もろくに取れず、夏休みになにもいい思い出がない。むしろ早く夏が終われとばかりに呪っていたくらいだ。


 そんな反省を生かして、今年、いちごと3人で回すのはさすがに無謀と考えたのだろう。



「じゃあ、2〜3日くらい抜けても平気ってことか」


「あら? なにかあるの?」



 興味津々な目つきで俺たち3人を見比べる母親。



「言ってやれ、音和!」


「サチおばちゃん、あのね、合宿をするの!」


「合宿? 3人で? どこで?」


「虎蛇会の親睦を深めるためにやることにしたんだ。凛々姉や野中も一緒だよ。たぶん誰かの家でやると思う」



 すかさず補足を入れる。



「そうなの? ステキね! 場所が困ったらウチでもいいわよ。お店閉めればいいんだし!」


「いやそれはちょっと! カフェつぶれちゃう!」



 と、キッチンの奥から父親のツッコミが聞こえて、母親はぺろっと舌を出し、片目をつむって見せた。



「事情は分かったわ。行ってらっしゃいよ、いちごちゃん。いつも助けてくれてありがたいけど、年相応に遊んで欲しいなって気持ちもあるのよ」


「そんな、サチさん……」



 ずっと黙っていたいちごがゆっくりと顔を上げる。



「それに去年の知の二の舞にはなって欲しくないし」


「もう、あんな悲しい思いは誰にもさせたくないんじゃ……」


「え、去年なにかあったの??」



 俺と母親は示し合わせたように、絶望感を漂わせて首を振った。

 フン。今年は人数が多くて去年よりもラクっぽいがな。その分、せいぜいビビっているがよい!



「今年は知ちゃんは働かないの?」



 空気を破るように、音和が無邪気に当たり前のことを聞いてきた。俺と母親は、とっさに顔を見合わせる。



「??」



 音和は不思議そうな顔で麦茶を飲んでいる。



「あー、知は、ねぇ……」



 母親がチラチラと俺を伺う。何も策が無いなら口を開くなよ……。



「ああそう、知は自分探しの旅に出るのよ!」


「おいなんだよそれ!」

「なにそれ、音も行く」



 俺と音和の声がかぶった。自分探しの旅って、俺そんなアツめのキャラ違うじゃん!?



「あれ? 行かないの?」


「行くわよ、ねえ知?」


「ちょっ、まっ……」


「行かないなら、合宿はなしよ」



 って、なんだそれー! だいたい自分探しの旅って、人から言われて行くようなもんじゃないだろ!

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