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6/25(土) 葛西詩織①

 土曜日、頭痛で目覚めた。


 チェストの戸棚を開け手探りで薬をつまみ、ろくに見ないで口に運んで飲み込む。痛みが通りすぎるのをベッドシーツを握りしめてじっと待つ。それ以上なにもできることがなかった。


 痛みは不安を増幅させる。頭を突き刺す激痛の間隔がどんどん早くなる。こんな痛みが続くくらいならいっそ……。


 いっそ、なんだって言うんだよ。くそ……。



………………


…………


……




「おはよ……って知、どうしたの、顔真っ青じゃないの!?」

「はよ……。水ください」

「ちょっと、食べなきゃだめよ!! グラノーラがあるわ、座ってなさい」



 台所兼カフェの厨房で母親が朝メシを用意してくれている。重い頭を支えながら、俺はカウンターに座って水を飲んだ。おうえぇ。食えるかなあ……。



「土曜なのに早いわね。なにかあるの?」


「10時から図書館でお勉強してくる」


「え? あんたやっぱりちょっとどこかおかし……」


「いや別に。テスト勉強とかフツーっしょ?」



 架空のメガネをクイッと持ち上げたところで、目の前のテーブルに朝食が置かれた。


 ヴィンテージの緑の器にミルクが注がれる。グラノーラの中に赤いドライフルーツが泳いで、きれいだった。


 ものを食う気力がわかず木のスプーンで転がしていると、母親が隣に立ったまま俺を見下ろしているのに気づいた。ちらりと横目で様子を伺ってみる。



「ねえ、今日くらいは寝てたら?」



 あんまりにも険しい顔をしていたから、すぐにグラノーラに視線を戻した。答えたくなくて、ひとくち口に放り込む。



「体調、悪いんでしょ。勉強って……身体をおしてまでやらなきゃいけないの?」


「でも動けてるし……」


「そんなの薬のおかげでしょ? 本来なら入院が必要な重病人なのよ、あなたは!」



 大きな声に、思わず手が止まった。けれどなにも言い返せない。


 少し間が開いたあと、ガタ、と隣の椅子が鳴った。母親が隣に座ったのだ。俺は黙って、持っていたスプーンをミルクの中に置いた。



「学校には行かせているけど……本当は治療に専念して欲しいわよ」



 両親にとんでもなく心配かけていることはよく分かってる。今までなにも言わなかったのも、俺の心的負担を思ってだろう。それを伝えてくるってことは、どうしても我慢ならなくなったんだろうな。


 でも俺、入院する気はないしなあ。



「ごめん……俺、行かなきゃ」



 責めるような視線に耐えられず、逃げるようにしてカフェを出た。

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