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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第1部 自慢のおじいちゃん
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6/5(日) 芦屋七瀬④

 担任が用意してくれたタクシーで病院に駆けつけた。七瀬は俺の手を取って、病棟のエレベーターに乗り込んだ。


 俺は待ち合いで待っているつもりだったけど仕方ない。手を離されない限り、どこにでもついていこうと腹をくくった。


 でもまさか病室の中まで連れて来られるとは思わなかったわけだが。



 急変とあって呼ばれたのだろう。見知らぬ大人が数人……おそらく親戚一同が、じいさんの周りを囲んでいた。



「おじいちゃんっ、おじいちゃんーっ!!」



 俺の手を握ったまま、七瀬は機械をつけて眠っているじいさんの胸に顔をうずめて泣き出した。


 立っている俺は余計に目立ち、親戚の方々の視線を独り占めしてしまうはめに。

 ああ、視線痛いッス、チクチクするッス。


 ふとベッド脇の機械が起動していることに気づいた。じいちゃんの顔にもまだ酸素マスクが付いている。



「ななちゃん。実はおじいちゃん、1回心臓が止まったんだけど、それがまた動き出したの」



 近くで女の人が涙を浮かべながらそう静かに語りかけた。七瀬の顔がぱっと上がる。



「……でも、やっぱりもう回復は難しいかもって」



 そのかすれた声はやけに病室に響いた。「そうなんだ」とつぶやいて、七瀬はじいちゃんの顔を見つめた。



「……あたしね、ずっと、おじいちゃんの最後の化石探してたの。でもごめんね、崖が崩れてきて採掘場が埋まって。まだ見つけられてないの」



 じいさんに語りかける七瀬に、そばに立っていた大学生くらいの男が声をあげた。



「冗談はよせ、こんなときに!」



 七瀬の肩がぴくりと震える。



「今は封鎖されているあんな危険な場所で、素人の子どもが発掘できるわけがない。発掘はじいさんの誇りなんだ。それを軽々しい嘘で汚すんじゃない!!」



 こいつ誰。すげー突っかかってくるじゃん。



「ほ、本当だよ! 本当に探してた!」



 男に向かって叫んでから、七瀬はじいさんの身体を揺らした。



「おじいちゃん、あたし頑張ったんだよ。手の皮も剥がれてボロボロだよ。ほら、おじいちゃんに紹介した友だちのなっちゃんも手伝ってくれて! でも……それでも……時間がかかるよぉ。おじいちゃん危篤になるのもうちょっと待ってよぉ!!」


「まだ言うのか! やめろ俺が許さんぞ!!」



 いちゃもんをつけてきた男は、その言葉に決定的に苛立った様子で、七瀬の肩につかみかかろうとした。



「さわるな」



 それを俺が許すわけないんだけど。


 彼女へと伸ばした手首を掴むと、男は俺をぎろりとにらむ。



「誰だよオメー」


「なっちゃんです」



 こんなヤツに真面目に答えてやる必要はない。



「ふざけてんのかこら」


「それはこっちのセリフだ。女ができるわけないって文句ばっかり言って、じゃああんたは何したって言うんだよ」


「俺は大学で、じいさんの跡を継ぐために勉強しているんだが?」



 勝ち誇った顔の男をにらみ返す。



「七瀬はここに通って、じいさんの話を聞いて、いちばんじいさんが喜ぶだろうということを見つけて行動したんだ。バカで突拍子もないやつだけど、少なくともこいつはじいさんのためになにかしようと、男でも気が滅入るような作業を実行した。口だけのあんたとは違うんだよ!!」


「なんだと。俺は再来年から採掘場を引き継ごうとしていたんだよ! つうか、関係ないヤツは黙ってろ!」



 関係ないヤツ、で片付けられたことにかちんときた。つかみかかるタイミングを計っていると、



「おじいちゃん!?」



 七瀬が声をあげた。



「お父さん!」


「おじいちゃん!」



 親族たちも口々に呼びかけ、じいさんの顔をのぞきこんだ。

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