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5/16(月) 転校生①

 結局、早朝緊急虎蛇会会議は「書記を探せ」という通達のみで解散。朝のホームルームを受けるため、七瀬と教室に向かった。

 音和は1年で会長は3年。そして俺と七瀬は2年で同じクラスだ。


 部屋を出る前、七瀬はさくっと髪の毛をポニーテールに結び直していた。



「おい。それさー……」



 アップヘアにして現れた耳に、校則違反のピアスが目立つ。さすがにそれは教師になんか言われるだろう。



「えー? かたいなーなっちゃんよー。委員会のときはちゃんと隠してるじゃん。えらいっしょ褒めてー」



 しかし当人は全く気にせず、楽しそうに笑いながら、馴れ馴れしく肩を組んでくる始末である。



「ば、ばかヤメロ!」



 どもったのはほかでもない。シャンプーの超いい香りがほんのりと流れてきたからだよ!!


 純情男子高校生こと俺には、女子の芳香とはとても甘美な誘惑であり、刺激の強すぎるものだった。

 ああ、思いっきりここで深呼吸できたらどんなに幸せだろうか……。


 しかし、それをしないのは俺にもちゃんとした理性があるからだ。

 今後も彼女との友好的な関係を続けるためには、絶対なにがなんでもそんな変態行為は……。



「ハアハア……トモミ……」



 そう、ハアハア欲情なんてしてはいけないって……俺!? ちげーよ誰だよ!?



「きゃっ!?」


「ちーす」



 いつからいたのだろうか。俺のうなじ近くに体長180cm超えの大男の顔があった。



「芦屋さん。俺のトモミを誘惑しないでくださる?」


「ってコラア! トモミって言うんじゃねえ!!」



 持っていたカバンを振り抜くと示し合わせたかのように七瀬はしゃがみこみ、ポニテの上を抜けて、野中の側頭部に直撃した。



「ひでぶううっ!!!」



 三下のように叫んではいるが、よく見るとしっかり左手でキャッチしてやがる。

 コイツ、無駄に運動神経がいいんだよな……。



「朝から元気ねトモミちゃん」


「だから。名・前・で・呼・ぶ・な!!」



 ぽいっと投げ返されたカバンをキャッチしつつ、俺はちょっと涙目だ。



「くそー。自分は野中貴臣(のなか たかおみ)っていう男らしい名前だから俺の気持ちが分からないんだ!!」


「っ!? なっちゃ……!」



 はっとした表情で野中は口元を抑えた。



「なんて可愛い子なのなっちゃんたら! ゴメンネ、結婚しようネ!!」


「貴臣……! 御社に永久就職希望ですーー!」



 廊下の真ん中で、俺達はアツく抱擁を交わした。



「「…………」」



 朝の登校時間だけに、たくさんの学生たちが俺達の横を通り過ぎていく。

 誰もが俺らを下げずむように横目でチラ見し、大きく避けて教室へと向かっていた。



「オラア! ツッコめよ!!」



 顔を赤くさせて叫んだのは野中が先で、さらには近くの男子生徒の襟元を掴んで八つ当たりもしはじめた。


 照れるならやるなよ。と思うだろう。しかし、そこがコイツの可愛いところなんだよな。ふふふ。



 野中は俺の親友。校内でコイツを知らないヤツはいないんじゃないだろうか。


 というのも、長身で超整った容姿はモデルさながら。一緒に歩いていても通行人の女性がほぼ100%振り向くほどだ。

 バカだけどスポーツ万能で背も高く、オーラというかカリスマ性がある。

 性格がこんなんだから残念だと言う教師もいるが、俺はそういうところが好きでコイツとつるんでいた。あとノリも合うしな。



 さて、獲物になった男子くんには悪いけど、野中の怒りがおさまるまではこちらとしても手を付けられない。

 ……とりあえず見守るね(ガンバ!)。


 一緒にいた七瀬にいたっては、スマホをいじってあくびまでしている。



「助けてやれよ、野中と同中出身だろ?」



 あごで示すと七瀬は顔をあげた。廊下の向こうでは野中と半泣きになった男子がくんずほぐれずとなっている。



「やーそもそも、あんたらカップルとは関わりたくないですわー」


「違いますからっ! って、本気でいやそうな顔、やめてくださるー!?」


「あれを止められるのは……なっちゃん、キミだけだ」


「なにそれ、俺を人類のための人柱にしようとすなっ!!」


「はあー。なにうぬぼれてんのー、英雄のつもりかおこがましい。ただうるさいチンピラを止めるエサだ……よっ!」



 それはもう遠慮なく。ドンと背中を押された勢いで、俺は野中たちに突っ込んだ。


 その衝撃で絡まれていた男子も吹っ飛び、やっと野中の呪縛から解き放たれた。


 よろける男子にすかさず七瀬が駆け寄る。



「大丈夫? 人間なのにこんな目に合って災難だったね……」


「ちょっとそれ俺たちが人外みたいな言い方だよね!?」



 廊下の真ん中で野中と抱き合って倒れていた俺は、さすがに顔を上げて抗議した。



「俺は……なっちゃんとならいいよ」


「いいよじゃねー! 頬染めんな! だからカップル疑惑が蔓延するんじゃねーか!」



 野中のほっぺたを引っ張っている間に、うまく男子生徒も逃げたようだ。

 キーンコーンカーンコーンと、予鈴が鳴る。



「じゃああたしまじめなんで行くねー」


「おい歩く校則違反待てやこらァ!!」



 去りゆく尻尾に向かって怒鳴る。



「うっさいなー顔面キノコに歩く色欲!」


「え……キノコ?? つか微妙に凹みづらいわツッコミづらいわ、チョイス最悪か!」



 立ち上がって七瀬を追いかけようとすると、座ったままの野中が俺の腕をつかんだ。



「ププーッ。なっちゃん、色欲っていわれてる(笑)」


「おい、イケメンがキノコ顔のほうってどんな見解だよ! それはねーよ! 本気で腹立つわーッ!!」



 その腕を思いっきり引き上げて立たせる。



「ほら、遅刻するから急ごうぜ」


「御意のままに~」



 そして俺たちも教室へと向かった。

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