6/5(日) 芦屋七瀬③
グラウンドに戻って、集合したままだった虎蛇に合流した。
「芦屋!? どうしたのその顔、そんなに痛む!?」
会長は、俺が七瀬を連れて帰ったのを見てすぐに駆け寄ってきた。うつむいて力なく首を横に振る七瀬の元に、ほかのメンバーも集まる。
「……それと昨日はごめんなさい」
唐突に、会長が頭を下げた。驚いて七瀬が顔を上げる。
「その顔を見てやっとわかった気がした。あなたがなにを抱え込んでいるのかは知らないけど……」
「……っ!!」
息を詰める七瀬に、会長は苦笑してみせた。
「話したくないものは無理に聞かない。ただ、チュン太は知ってるのよね?」
七瀬は静かにうなずく。
「うん、それでいい。芦屋がひとりで抱え込んでないならいいの。それに、コイツなら支えてくれるわ」
七瀬は目に涙をためて、頭を静かに下げた。
「つらいなか、よく走ったね。虎蛇の勝利はあなたの強い精神があって、もたらされたものよ」
会長はやさしく、目の前の肩をぽんぽんと叩いた。唇を震わせて涙を堪える七瀬を、どこかホッとして見守っている。
しかしその空気はすぐに壊れた。
グラウンド中に響く甲高いノイズで、スピーカーの電源が入ったことに気づいた。放送席を見ると同時に、流れたのは担任の声。
『2年A組、芦屋七瀬。今すぐ本部に来なさい』
どくんと胸が跳ねた。七瀬と俺は無意識に顔を見合わせる。
まさか……もうバレた? いや、こんな短時間で特定なんて……。
顔面蒼白で固まる七瀬に、状況はわからないけど俺は声をかけてやらなければいけない。
「……大丈夫。大丈夫だ」
根拠はない。でも、それが口だけにならないように彼女を守らないと。力になると約束したのだから。
「チュン太。一緒に行ってやって。あたしたちの助けがいるときは呼びなさい」
そんな俺に会長が声をかけてくれた。それだけで、いつの間にかこわばっていた顔もふっと力が抜けた。
「たのもしいね、会長。行こう七瀬!」
ゆっくりとみんなの顔を眺めてから七瀬は俺を伺うように見て、こくりと頷いた。
こんな騒ぎの中、テントに呼び出された俺たちに周りの目が刺さる。本部に到着すると担任が七瀬に駆け寄ってきた。ちらりと俺を見ていぶかしげな表情を浮かべたのち、また七瀬に向く。
「芦屋、お前どこに行ってたんだ! クラス探してもいないし」
七瀬は黙って下を向いた。
「……お母さんから、電話があったんだよ」
「えっ」
七瀬の目が見開かれていく。
「おじいさんの容態が急変したそうだ」
肩が揺れたかと思うと、ストンと身体が下に落ちた。
支えようとしたが遅く、七瀬の膝は地面についてしまった。
「う……そ……」
なんで、よりによってこんなときに。悪いことは重なるのか――。
茫然自失となった七瀬の身体を支えながら、担任が続ける説明を恨めしく思いながら聞いた。