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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第1部 自慢のおじいちゃん
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6/5(日) 体育祭④

 七瀬が最後のコーナーを曲がりきった。あとは直進というところで、生徒会の男が七瀬に追いつく。



「きゃっ!!」



 七瀬が左足から崩れて倒れ込む。生徒会の男子が七瀬の横を通り過ぎたとき、明らかにわざとぶつかっていた。


 でも、リレーは止まらない。



「どけ、生徒会が内側だ」


「っ!?」



 八代が俺の背中を押して、バトンを受けとるため、コーナーの内側に入った。



「お前らっ、本当に最低だな!!」


「言いがかりはよしてください小鳥遊くん。よくあるトラブルでしょう」



 八代はもう、俺の顔なんて見ようとしなかった。

 あんなに激しくぶつかられて、七瀬は!?


 トラックを見ると、立ち上がってこっちに向かっている姿が見えた。



「なな……っ!!」



 バトンの受け渡しが行われているのを横目に、俺は彼女から目が離せなかった。足に怪我を負っていたからだ。



「痛いなあ……」



 全身が汚れているのも、足から流血しているのもかまわず、七瀬はしっかりと、確実に歩を進めていた。



「体育祭ごときでマジになってキモいキモい」



 あの足で走ろうとする彼女を……止めるべきだろうか。



「でも悪いけど、あたし根性だけはあるんだよね」



 だけど……声が出ない。



「それに割と虎蛇が好きだから」



 いつの間にか目の前まで彼女は来ていた。



「だから、なっちゃんお願い! 負けたくないよ!!」



 手のひらにしっかりと、バトンが叩きつけられる。



「まかせろ」



 すぐに俺は大地を蹴った。



 2回目に走るから喉が痛い。足も痛い。口の中は鉄の味がするし、気分は最悪だ。でもそれ以上に、あのせこい男には負けたくなかった。


 その差は40メートルくらいか。

 八代は運動部なのか、距離はまったく縮まらない。


 状況は良くないまま、八代が最終コーナーを曲がるのが見えた。

 そして吉崎にバトンが渡される。


 会長はっ……!!?


 八代がコースから消えると、その陰で見えなかった会長の姿が現れた。


 おい……。笑ってるってそれどんなサディストだよ。

 でも――安心するじゃんか。



「っかいちょおおお!!」



パシッ


 バトンがつながる。


 俺はラインの内側によろよろと歩いて倒れた。とにかく酸素が足りない。死ぬ。



「知実くん、あぶないっっ!」



 いちごが俺の元に走ってきて、身体を支えてくれた。なにもしゃべられないまま、息が落ち着くのを待つ。



「ごめん、ごめんね、あたしのせい、あたしのせいで……っ」



 七瀬もやってきて、ぼろぼろと泣いた。



「七瀬ちゃんっ、かっこよかったよ!」



 いちごが七瀬の頭を抱きかかえる。俺は息を整えながら笑った。



「いやあ。諦めるのはっ、早いつーのっ」



ワアアアアアアアアア!!!


 ギャラリーが一層湧く理由はただひとつ。



「え……うそ。すごい……!」



 地面にひざをつき、七瀬を抱いていたいちごがつぶやいた。えづきながら俺も会長を探す。トラックの最終コーナーで、吉崎を捉えていた。



「まるで肉食動物みたいだな……」



 自分で文武の才がなんとか言ってたけど、会長らしいなほんと。


 ゴールのピストルが撃たれた。



『勝者…………


 文化祭実行委員!!』



「……っしゃーーー!!!」



 割れんばかりの歓声と拍手の中、俺たちは3人で抱き合った。

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