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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第1部 自慢のおじいちゃん
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6/5(日) 体育祭③

 そして俺は、ロングのヅラとミニスカートのドレスを身にまとい、スタートラインに立っているわけだ。



「や、ばい。知実くん、抱きしめたいっ……!!」


「あとでいくらでも抱きついてやる!!」



 目をキラキラと輝かせているいちごに言葉でセクハラする。


 外野からも「可愛い」の野次が飛ぶが、ほぼヤローだ。そんなの俺は求めていない!



「あーっはっはっは! いい眺めよチュン太ちゃーん!!」



 走者側で野次を飛ばす生徒会長の思惑通り、つまらなそうなリレーも女装の変態こと俺の登場で、全校生徒の目が釘付けだった。


 隣を見ると、顔の濃い鈴見がニヤニヤしながら俺を見ていた。

 気持ちわりい。でも、余裕ぶっていられるのも今のうちだ。



「位置について!」



 ピストル係が手を上げる。

 クラウチングは無理だからスカートの裾を握り締め、せめて低姿勢を取った。


パアアン!!


 スタートの合図と同時に駆け出す。

 自分の走る前に、鈴見はいなかった。


ワアアアアアア!!!


 外野がわく。このままトップを死守してやる!

 長い毛が顔に貼りつくのを耐えながら、がむしゃらに前に進む。



「っ!?」



 頭が軽くなり、冷たい空気に髪の毛が触れた。


ワアアアアアア!!!


 外野がさらにわき上がった。



『おっとー文化祭実行委員(仮)のカツラが取れて、生徒会走者に直撃したーーっ!!』



 どうやら俺のウィッグが鈴見の邪魔をしているらしい。超ラッキー!!


 上体を斜めにし1周目最後のコーナーのなるべく内側を駆ける。いちごがスタートラインで俺を待っていた。



「知実くんこっちー!!」



 叫ぶと、ぴょんと飛んでから全力で走り出す。


 おいマジかよ早くね!? くそ、追いつけるか!?


 俺も最後の力を振り絞り、走った。


 テイクオーバーゾーンを過ぎてバトンを渡すと失格になってしまう。懸命にバトンを持った右手を前に突き出した。



「うおおおおおおおおおおおっ、いちごっ!」



パシッ!!


 バトンはいちごの手に吸い付くようにして渡った。そのとたん、歓声が上がる。



「ハア、ハア、ハア……」



 立ち止まって息を整えていると歓声はさらに大きく、割れるほどに響いた。


 顔を上げて周りを見回すと、トラックの最終コーナーをもういちごは駆けていた。



「うそだろあいつ……」



 生徒会には半周も差をつけていた。七瀬も急いでスタート地点に向かっている。



「くっそー、休みなしかよ!」



 俺はそう言い捨てて、スタート地点に走った。

 笑顔がこぼれる。

 そしていちごから七瀬にバトンが渡った。



 ヅラでペッタリしていた髪をかきむしりながらドレスを脱ぎ捨て、走者が待機するグラウンドの内側に戻ると、会長といちごが七瀬の姿を目で追っていた。


 俺もすぐに状況を確認するが、七瀬の走りはやっぱり普通の女子より少し遅いようだった。顔はすでに上を向き、呼吸が聞こえてくるほど苦しそうだ。



「……っ!」



 大きく開いていたはずの差がどんどんと詰まっていく様子を見て、会長が苦い表情になる。たまらず俺は会長の隣に入って叫んだ。



「会長、七瀬は……!」


「頑張ってるね、芦屋」


「!」



 一瞬だけ俺を見た会長の目に、責めている様子はなかった。



「七瀬ちゃんがんばーー!!」



いちごが一生懸命叫ぶ。



「七瀬ちゃーーん!!」


「芦屋ーーっ、あと少しだーー!!」



 会長も口の横に両手を当てて大声を出した。


 その声が届いたのかどうかは知らない。でも、苦しそうな顔で走っていた七瀬は、ぐっとあごを引いて前を見据えた。



「七瀬ー! 頑張れーーっ!!」


「大丈夫、いけるぞ七瀬!!」



 クラスからも声援が飛ぶ。

 しかし同じように、どんどん詰め寄る生徒会の応援も盛り上がっていた。


 俺も声援を飛ばしながらスタートラインに立った。あとは七瀬が来るのを待つだけだ。

 隣を見ると副会長の八代が屈伸をしていた。



「さっきはヒーローだったじゃないですか」



 走者と俺を交互に見ながら八代が話しかけてきた。



「……女装服を常備している生徒会(おたく)ってどうなの」


「生徒会長の趣味でね。女顔のきみのことを、いたく気に入ったようで」


「それは迷惑な話だな」



 最終コーナーに七瀬が入った。



「……音和の借り、返すから覚悟しとけよ」



 そう言って、八代を睨んだ。



「言っている意味がわからないですね」



 走者を目で追っていた八代も俺と目を合わせてうすら笑う。

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