表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第1部 自慢のおじいちゃん
43/301

6/5(日) 体育祭①

「知実くん知実くん、メダルもらっちゃった!」



 女子1500mから戻ってきたいちごはうれしそうに、胸で光る小さなメダルを見せた。



「日野さんすごい! 速かったね!!」


「一瞬で走り切ったもんね……すごい」


「えへへ。そんなことないよー」



 さっそくクラスのやつらにもみくちゃにされていた。


 グラウンドでは借り物競争が始まり、音和が走っていた。札を取って顔をしかめ、きょろきょろと周りを見ている。


 仕方ない、助けてやるか。

 クラスの待機席を立ち上がって音和を手招きで呼ぶ。



「知ちゃん!!」


「お題はなんだって?」


「んーー……なんて読むの?」



 紙を奪って読む。



『深窓の令嬢』



 ……。



「誰だ! これ書いた中二病患者は!!」



 体育祭を取り仕切っている本部席の生徒会に向かって叫んだ。



「な、なに??」


「しんそうのれいじょう って書いてる」


「ふかいまどが意味わかんない……」


「葛西先輩でも連れていけよ」



 そう伝えて俺はグラウンドから出た。


 テントのほうに小走りで向かっていく音和の後ろ姿を見送る。葛西先輩ならあいつも声をかけられるだろう。


 借り物競争に出ているほかの1年を見ると、全員、うろうろしながら困っている。かわいそうに……。



パン!


 ピストルが鳴った。

 見ると、音和と葛西先輩が笑顔でゴールテープを切っているところだった。



┛┛┛



 プログラムも進み、生徒会VS文化祭実行委員(仮)のリレーの出番が近づいてきた。



「七瀬行こうか」



 いちばん前に座っていた七瀬に声をかける。



「……」


「七瀬、なっちゃん呼んでるよ」


「……え? あ」



 隣の女子が呼んでくれて、やっと気づいた。



「頑張って!」


「行ってくる、ありがと☆」



 クラスメイトに手を振り、七瀬は俺の元に来た。



「どうかした?」


「……ううん。なんでもない」



 そうは言うが、朝からずっとこんな様子でぼんやりしていた。


 二人で並んで歩く。

 まだ係の仕事をしているいちごがグラウンドの奥に見える。



「そうだ、あれから会長とは?」


「話してない……」



 そう言うと七瀬はうつむく。相当、気まずいのだろう。



「……それでじいちゃんのほうはどうだった?」



 昨日、作業を中止したあと、七瀬は病院に行くと言った。じいちゃんの顔を見たい、と。俺も付き添いたかったけど丁重に断られて、その後の話はまだ聞いていない。



「うん。意識不明からは回復したんだって。今は目を覚ましたり、眠ったりで、昨日は眠ってた……」



 良かった。最悪はまぬがれているようだ。



「じいちゃんには元気になってもらって、また頑張ろうぜ」


「……もういいよ」


「え? どうしたんだよ。まさか、あれくらいのことで心折れたの?」


「……違うし」


「じゃあなんでだよ」


「つかさ、なっちゃんには関係ないじゃん!」



 叫ぶと、目も合わせずに七瀬はテントに走って行った。

 なんだそれ、あいつ本気で言ってんのかよ。



 イライラしながらテントに行くと、すでに会長と葛西先輩が待機していた。七瀬は会長の顔を見ずに会釈だけして、その後ろに回った。会長も七瀬を一瞥して無言で前を向く。


 雰囲気は最悪だ。これでリレーとか無理くね。



「頑張ってくださいね! 小鳥遊くんも、芦屋さんも」



 葛西先輩がパイプ椅子から立ち上がって、激励の言葉をくれた。



「葛西先輩、体操着真っ白ですね」


「小鳥遊くんのおかげで、初めての体育祭なんです! これにも初めて、袖を通しましたから」



 無邪気にくるくると回ってくれる。



「いい! サマになってる!」


「ありがとうございます。でもみなさんのほうがお似合いですよ」



 頬に手を置き、照れている。なんとも可愛らしい仕草であった。



 葛西先輩のおかげで、少なくとも俺はちょっと毒気が抜かれて気分が和らいだ。マジで助かった。


 いちごと音和も歩いて来てるし、やっとメンバーも揃ったな。



 ……。

 なあ、どうしていちごが、音和の身体を支えるようにして歩いているんだ?



「知ちゃん!」



 テントの下まで来ると、音和がよろけながら俺の腕にしがみついた。ヒザはすりむいて痛々しく、足首は赤く腫れていた。



「え、なに……これ、お前いつやった」


「ひ……っく、う、うう……」


「大ケガじゃねーか、転んだのか!?」



 俺はおろおろと肩に手を置くことしかできないし、音和は泣いているばかりだった。



「ここに来る途中、音和ちゃん、人混みで誰かに蹴られたんだって」


「はああ!?」



 音和を心配そうに見つめながら、いちごは続けた。



「でも、誰かわからないって……。うずくまってるところを見つけて一緒に歩いて来たんだけど、こんなのってひどい……」


「とりあえず座りましょう穂積さん。救急用具もらってきますね」



 自分の席を音和に譲って、葛西先輩がテントを離れた。

 この腫れ方、思いっきり狙って蹴られたように見えるけど。なんで、音和がこんな目に合うんだよ……!?



「どうも部田さん、リレーではよろしく?」



 ふいに背後からかけられた声に、俺たちは一斉に振り向いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ