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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第1部 自慢のおじいちゃん
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5/31(火) 葛西詩織②

 虎蛇のドアを開けると、会長と音和が目を閉じて向かい合っているところだった。



「よし、今どうなってる?」


「あたしがバトンを渡して日野さんが走った。日野さん超はやくてもう芦屋さんにバトン渡してる」


「そう。生徒会は?」


「『血税〜』って呻きながら緑の体液を垂れ流し、高速ほふく前進で芦屋さんの後ろを追いかけてる」


「ええ!? あたしゾンビと走るのやだよ!?」



「…………なにやってんの?」



 ぱっと二人が目を開き、入り口で立ちすくむ俺を見る。



「穂積とイメトレをしていたのだけれど?」



 ポーカーフェイスを崩さない会長。音和と遊んでいたらしい。

 窓際の七瀬は体を倒して、俺の後ろを見ようとした。



「おかえりー。あれ、しおりん先輩は?」


「ひとりで戻らされたんだよ……」



 口を尖らせて、会長のもとに行く。



「どうした?」


「会長。体育館、とれましたよ」


「……え?」


「つーわけで、お前ら全員着替えて体育館に来い。練習だ」



 ぽかんとしている音和と七瀬に伝えた。


 すると素早く音和が席を立った。自分のかばんを覗き込み、体操着を引っ張り出す。さすが音和。素直で従順で大変よろしいな。



「チュン太」


「なに?」


「いつまでそこにいる気?」


「……あ」



 音和はすでに上着のボタンに手をかけていた。

 会長と七瀬の明らかに軽蔑している視線が刺さる……。


 俺が慌てている間に、シャツをバサッと上から脱ぎ、頭を引き抜いた状態で音和がこの空気に気づく。


「???」


「じゃ、じゃあ僕、体育館で待つんでっ!!!」



 それだけ伝えると、俺は急いで虎蛇を出て扉を閉めた。そして着替えるために体育館へと走る。脳裏に浮かぶピンクのブラは、どうにか消そうと努力はした。



  ◆◇◆◇◆◇



 体育館のコートは全て埋まっていたが、地下のダンスクラブのコートが空いていて、俺たちはそこに集まった。


 体育館のフロアよりは若干小さいがダッシュや筋トレすることにはまったく問題ない。



「すご。さすが知ちゃん!」



 体操着の音和が俺の背中に抱きついてくる。それを丁寧に引っぺがしながら、後から来た会長と七瀬を手招きした。



「まさかここが空いているとは不覚だったな。ありがとうチュン太」


「あ、いや。お礼なら俺じゃなくて葛西先輩に言ってよ」


「詩織に?」


「うん。先輩が見つけて運動部の先生に掛け合って、使用許可をとってくれたんだ」



 ちょうど奥のトイレから葛西先輩が出てきた。みんなが集まっているのに気づいて丁寧に会釈をくれる。その奥ゆかしさが先輩らしかった。



「よし、みんなうちの有能マネージャーに感謝しよう! せーのっ!」


「詩織、助かったよありがとう」


「しおりんせんぱーい、ナーイスッ!」


「あ、あ、ありがとござますっ」



 各々でお礼を口にする俺たちに先輩は一瞬驚いた顔をしたが、にっこりと笑って手を振ってくれた。そしてハンカチを敷いて、フロアに座り込む。



「じゃあ今日はいちごがいないから音和と会長で組んでもらっていい? 俺は七瀬の腿上げの監視をするわ」


「……この悪魔」



 俺たちは自主練のため、それぞれ散った。


 横目で葛西先輩を見る。もう迷いは吹っ切れたんじゃないかと期待して。


 でもその期待にはまだ不安が残った。

 葛西先輩は複雑そうな表情でコートを眺めていたから。

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