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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第1部 自慢のおじいちゃん
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5/31(火) 葛西詩織①

「なっちゃん、掃除ないよね。虎蛇行こ」



 授業の終わりと同時に、前の席の七瀬が振り向いて言った。



「オッケー。いちごは?」



 斜め前の席、いちごにも声をかける。



「わーん今日はバイト。ごめんようっ」



 すまなさそうにパンパンと手を合わせて拝まれる。



「うん。たぶんそのジェスチャー、不謹慎なやつだと思うぞ」




 いちごを見送って、俺たちも教室を出た。帰宅する生徒の声よりどうしても雨音が気になってしまう。



「それにしても、ちゃんと虎蛇には参加するんだな」



 最初はあんなに面倒臭がっていたのに、意外にもきちんと七瀬は練習に参加している。



「だって雨だし。作業できないから」


「まあ無理だよなあ。これじゃあ」



 窓から外をのぞくと、グラウンド一体、水たまりがボコボコとできていた。



「それに手伝ってもらってる以上、こっちも参加するよ」


「へー。お前にそーいう心づかいがあるとは意外だったなあ」


「失礼なっ。“やられたらやり返す”がうちの家訓なんだから!」


「それちょっとニュアンス違わね?!」



 頭の上にプンプンと可愛い擬音が出てるけど、言ってることは超がらが悪い! 家訓じゃなくてモットーだろ。



「だからなっちゃんがもしあたしを傷つけようものなら、一族総出でフルボッコなのよ」


「あ、ニュアンス合ってましたね! 絶対何もしない! お嬢さんを大切にします!!」


「こら、どさくさに紛れて求婚すな!!」



 楽しく虎蛇へ向かった。




「あれ? 葛西先輩、帰ろうとしてない?」



 渡り廊下で七瀬がふと正面を凝視した。昇降口まで歩いて行くと、葛西先輩は靴を片付けているところだった。



「あれは……止めたほうがいいよな……」


「まかせた〜」



 七瀬に背中を押され、よろけそうになりながら先輩の元へ歩く。


 今日、連絡が届いてなかったのかな。それとも予定があるんだろうか。

 どっちでもいいか、聞けばいいし。



「葛西先輩っ!」



 靴を履き替えて歩き出そうとする寸前で、葛西先輩を呼び止める。



「小鳥遊くん」



 いつも通りの癒しフェイスが俺の名を呼ぶ。



「どうかされました?」


「今日虎蛇の集合がかかってたんですけど、連絡行ってますか?」


「知ってます……けど……」



 うおい、知ってたんかい!



「今日は……といいますか、体育祭が終わるまでしばらくは家の事情で行けなくて……」



 不自然に目を伏せた。



「そうなんですか、1週間も!? 大丈夫ですか。大変ですね」


「……」


「あれ、先輩?」



 今度は唇を噛んでふるふるしてる。



「だって……わたしがいても、邪魔になってしまうだけですから」



 諦めているような、突き放すような。自虐的な表情だった。

 先輩の顔をまじまじと見ていると、ばつが悪そうに視線をそっと上げる。



「なんでそんなに悲しそうなんですか?」


「っ!」



 先輩は怒られた子供のように身をすくませた。


 うーんこれ、俺がいじめているように見えるな……。早急に話をつけたい。



「運動したことないなら知らないかもだけど、プレイヤーはマネージャーがいて真価を発揮するんですよ。ドラッカーのマネジメント本、読んでないんですか?」


「読みました……けど」


「さっすが。まあ俺は読んでないっすけどね」



 先輩は高度警戒態勢のまま、俺の顔色を伺っている。



「先輩、今日の家の用事って急ぎですか?」


「それは……」



 俺はわざとらしく肩を落としてみせる。



「俺たち、リレーの練習できるところがなくなっちゃって探さなきゃダメで。なんかいい案ないですかね。……助けて欲しいっす、先輩」

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