5/31(火) 部田凛々子
俺たちの決意とは裏腹に、雨は止まなかった。
ひとり廊下を歩いていると肩をたたかれた。振り返ると、黙ってればモテそうなのにでお馴染みの人が立っていた。
「なぜそんなに残念そうな顔をしているのだチュン太」
「ああ会長、考えすぎだよ」
「チュン太もこれから購買?」
「うん。ジュースを買いに。会長も?」
「あたしはノートを買いにだけどね。一緒に行かない?」
「もちろん!」
肩を並べて歩いていると、よく一緒に遊んでいた頃のことを思い出す。
横顔をこっそり伺う。やはり年月が経ったことを思い知る。
小学校時代の彼女は地域の班長で、俺より大きくたくましくてみんなの憧れだった。誰も逆うことはできなくて、彼女を怒らせるとみんな震え上がったほどだ。そんな彼女にまとわりついてたのが俺で、たしか……本人には相当ウザがられてたっけな。
だけど今の彼女の見た目は、その頃の剛腕な面影はまったくない。肩幅も小さく華奢で、どちらかといえばか弱そうな女性という雰囲気だし。
「チュン太、聞いてるの?」
……中身は変わんねえけどな。
「あ、はいはいごめん、なに?」
「今日も雨ねって」
「うーん、そうなんだよねー」
いつもより暗い廊下を歩く。いつもより少し肌寒い。
会長がふうとため息をつく。
「練習、困ったな」
「ウチの学校はなんでこんな天候悪そうな時期に体育祭があるのかね……。体育館は?」
「掛け合ってみたんだけど、バレー部やバスケ部、外の運動部が練習で使っていて無理だった」
まあそっち優先になるわな。部活は選抜大会とかあるんじゃなかったっけ。
「昨日は休みだったし、今日は一応、虎蛇で集まる?」
「そうしたいわね」
「わかった。俺もなにか案を考えておくよ」
自動販売機で、お目当てのジュースのボタンを押す。
「じゃあ俺りんごジュースね」
「なぜあたしを見る?」
「だって年上じゃんか」
「へえ? いいわよ?」
な、なぜだ……。会長は笑っているのに、なぜこんなに怖気がするのだろうか?
「あたしにものをねだるということは、それ以上の見返りを求められるのは承知の上ってことよね?」
あ、たぶん予感当たったわ。
「ごめんなさい、ウルトラハイパー冗談でした」
「あたしを手玉に取ろうとするなんて一生早いのよ」
そして目の前に差し出されるパックのジュース。
「まあいいわ。可愛い後輩だから今日だけよ。ホラ施しを受けなさい」
「言い方!! ありがとうございます……」
恐る恐る受け取ると、凛々姉は満足そうに頷いた。
「んじゃ……、また今度なんかおごるよ」
パックにストローをさす。
「あらそう。ちなみにあたしの誕生日は8月ね」
ぶふーーーー!!! と、マンガのようにりんごジュースを勢いよく吹き出す。
「はい?」
「8月13日、期待してるぞ、少年!」
ぽんっと肩を叩かれ、そのままスタスタと購買へと消えて行った。
「……まさか、からかったの、わりと怒ってたのかな?」
もしくはりんごジュースでわらしべ長者を狙っているのか。読めない人だった……。




