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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第1部 自慢のおじいちゃん
33/301

5/30(月) 芦屋七瀬①

「トモミにアタックをしていいのは……俺だけーーーーッ!!」



 相手コートにバレーボールがたたきつけられる。レシーバーはその軌道をただ眺めて、



「……無理無理無理無理!! だってなんか床焦げてるし!!!」


「すげええ!! ノナカまじで人間なのー!?」


「ノナカの中になに入ってんのおおお!!」



 と、絶叫した。



「これが愛の力!!」



 コートの外からつかつかと入っていき、めちゃ決めポーズしている野中の頭をはたいた。



「トモミって呼ぶな言うとろうが!! しかも俺は別チーム! 試合にカンケーなーいっ!」


「あい……」



 頭を押さえてしゃがみ込む野中。



「もしかしてなっちゃんがクラス最強?」


「ノナカにあんなことしたら殺されるよね……」



 なぜか俺が恐れられてしまった……。


 俺のチームは出番じゃないから、再びコートの外に出て座った。今日はあいにくの雨だから、男子の体育は館内でバレーをすることになったのだ。



「くらえ、トルネーーーーード打法!!」


「ひ、日野さん、ぜんぜんトルネードしてないっ!!」



 ということで、もちろん女子も体育館に。隣のコートでは、いちごが大変ハッスルされているようだった。


 体育館に響く雨音を聞きながら考えた。

 雨かぁ。リレー練習も山掘りもできないな。どちらも時間がないっつーのに。


 そういえば七瀬はどうしてるだろう。


 気になって隣のコートを探してみると、クラスのギャルたちと隅っこに座って談笑しているのが見えた。その目はときおり、男子コートに向けられている。


 不思議に思って、七瀬の視線の先を追う。

 あら。

 野中にたどり着いた。


 また野中がスパイクを決めると、割れんばかりの歓声が女子コートから聞こえた。七瀬もギャルと話しながら器用に男子コートを見ている。俺の存在なんて目に入らないかのように。


 ……重労働手伝ってるのは俺なんだけどな。なんて、少しだけ野中に嫉妬している自分がいる。


 別に七瀬に恩を着せたいわけじゃないけどさ。ちょっとくらい気にしてくれたってよくないか? と、少しだけ悲しい気持ちが押し寄せてきた。


 ふと、どこからか視線を感じた。


 パチッと目が合った先はネットの向こう。試合を終えたいちごが、ラケットをぶら下げて突っ立っているのが見えた。俺が気づくと嬉しそうに手を振ってくれる。


 げ。ずっと七瀬のこと見てたの、見られてたのかもしれない。恥ずかし……。


 焦りを誤魔化すように、ゆっくりピースを掲げてそれに答えた。



  ◆◇◆◇◆◇



 6限になっても雨はやまない。それどころか強まってるような気さえする。担当教師が来ないまま、6限も20分が過ぎていた。


 暇だ。こんなときに限って野中はいないんだからな。まったく!

 目の前に垂れるしっぽが目に入り、好奇心でそれを引いた。



「いてっ! 呼び鈴じゃないっつーの。なに?」



 髪の毛を押さえながら七瀬が振り向く。



「雨だけど」


「チッ、わかってる……」



 恨めしそうに外を睨んだ。



「今日さ、山が無理ならデートしません?」


「はあ?」


「博物館デート。実物見ておきたいんだけど」


「あー……そうだね、オッケーいいよっ!」



 明らかに警戒していた表情も柔らかくなり、コクコクとうなずいた。



「デッ!?」



 小さな叫び声がななめ前の席から聞こえた。


 はっと見ると、いちごが顔を真っ赤にして口元を押さえているではないか。なにか勘違いしてね!?



「ちょ、違うからっ!! いっちー落ち着いて!」



 あわてて七瀬が振り向いて、いちごの肩を揺するが、いちごは固まったままだった。



「いちごは今日もバイト?」


「い、いえ、ないですけど……」


「じゃあ一緒に行こうぜ」


「そ、そうだよ、いっちーもこの街の歴史、気になるよね、ね!?」



 そんな必死になるなよ七瀬……。



「気にならないことはないけど、あたしそんなお小遣い持ってきてないので、その」



 そうだ、いちごはお金に余裕がない子だった。



「お金の心配はしないでいいから、来て!!」


「おい、そんなに俺と二人がイヤなの? それはそれでショックだぞ……」



 わかりやすく落ち込んで見せる。



「あ、違うの、なっちゃんもお金いらないよ。うちのおじいちゃんの名前出せばとりあえずタダになるっしょつーかタダにさせる」



 七瀬の口元がつりあがる。こ、こええ……!!

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