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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第1部 自慢のおじいちゃん
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5/28(土) 芦屋七瀬①

 午前中、虎蛇のメンバーで学校に集まった。まず走る順番を相談し、「音和→いちご→七瀬→俺→会長」と決めたのだが、「知ちゃんにバトン渡したい……」と音和は不満げだった。



「我慢しろって。お前の瞬発力は例を見ない。序盤から引き離すためには、音和が頼りなんだよ」


「わかったあたしがんばる!」



 なぜかそれでやる気になったらしく、いちごの元にとてとてと走って行った。いちごと少し話して、ぺこりと頭を下げる。おお、えらい。ちゃんと謝れているじゃんか。



「なっちゃん」


「チュン太」



 音和を見ていたら、七瀬と会長の二人が同時に声をかけてきた。三人で顔を見合わせる。



「お、なに?」


「バトン練習を……」


「と、声をかけたんだけど……」



 声をかけたタイミングがバッティングしてしまったらしい。

 三人でやるのは効率悪いし。どうしようかな……。



「会長、俺、七瀬についていい?」



 声をかけてきたくせに、七瀬は動揺している。



「会長は運動神経いいから、バトン練習もギリギリでいいと思うんだ。コイツは俺がちょっと鍛えようと思う」


「ふむ……」



 会長は少し考えてから、頷いた。



「わかった。それが所詮最良の選択ね。なにせあたしは文武両道の上、美をも兼ね……」


「じゃあ行こう七瀬」


「あ、うんー」



 会長の話を最後まで聞かずに二人でトラックの端に移動し、とりあえず、ストレッチから始めることにした。


 グラウンドで身体を伸ばしていると「あたしと練習でよかったの?」と、不安そうに七瀬がたずねてきた。



「だから会長はお前と違って大丈夫なんだって」


「なにそれ」


「勝ちたいからお前を鍛える」


「……足遅くて悪かったわね」



 むくれながらアキレス腱を伸ばす七瀬に聞く。



「んで。お前50m何秒くらいなの?」


「12秒」


「おっせえ!! 本気で走ってねーだろてめー!」


「だって体育だしー。てきとーっしょ」


「お前そういうの良くないぞ。まずは腿上げからだ、根性をたたきなおしてやる!」


「ももあげってなによ。から揚げ?」


「なんでここで飯食う気なんだよ! その場で走るように、腕をできるだけ大きく振り、腿は胸につくくらい引き上げるんだ」


「げ、マジ……」


「高速でな。やれ」



 スパルタでいくことにした。



 2セットもやると、七瀬は地面に突っ伏してしまった。


 二人で休憩がてら周りを見ると、ちょうどいちごがトラックを走っているところだった。その動きには無駄がなく、風のようになめらかで、鉄棒の下でストレッチをしていた陸上部もグラウンドに散らばっていたサッカー部も、みんなその走りに見とれていた。


 ゴールしたあと、俺たちに気づいて手を振るいちごに手を振り返したら、運動部が一斉にこっちを見た。


 恥ずかしくなって視線を七瀬に移すと、すでに起き上がっていちごを見ていた。



「やばいねーあれ。あの子があたしの回も走ればいいじゃん」



 心から感心していたようだったが、その言葉には感心できない。



「ズルすんなよ。ほら立って」


「なによ……」



 ふてくされた七瀬は体育座りになった。



「七瀬?」


「やだ」



 さらに小さくなって立ち上がろうとしない。



「だってあたしなんて足引っ張るだけだもん。……出たくない」


「あほ、別に足引っ張っていいんだよ」



 こいつそんなこと気にしてんのか。呆れつつ七瀬の隣にしゃがみこむ。



「みんなで走りたいんだよ。たとえば音和がスタートで転んだせいで負けたとする。でも音和はすぐに起きて一生懸命バトンをつないだ。お前、音和を責めるの?」


「……そんなことしないよ」


「いいやつだな。俺は責めるがな」


「ちょ、悪魔!?」


「俺は音和には厳しく教育しているんだよ」



 七瀬は苦笑して顔を上げた。



「……なっちゃんの言いたいことはわかったよ。……練習するから付き合ってよね」


「おう」



 先に立ち上がり、手を差し出す。



「見返してやろうぜ、生徒会のやつらを!」



  ◆◇◆◇◆◇



 一日目ということもあり、練習は昼前に終わった。


 バテて木陰で屍化しているメンバーに、かいがいしく葛西先輩がお茶を配ってくれている。ああ、なんて有能なマネージャーなんだろうか。



「はい、小鳥遊くんも」


「ありがとう先輩。詩織って呼んでいいっすか」



 先輩の手ごとカップを受け取ろうとする。



「ダメです」



 ひょいっとカップを上にかわされた。

 笑ってはいるけど、相変わらず手厳しいぜ☆


 ひと息ついたころ、会長がみんなに声をかけた。



「さてこの後、みんな時間があるんだったらランチでも行く? 日野は……バイトがあると言ってたっけ」


「はい、ごめんなさい」



 申し訳なさそうにいちごがうなだれる。



「残念だが気にするな。チュン太たちは?」



 俺と音和に言ってるのだろう。音和は俺に任せるという目でこっちを見てる。



「ああ、俺はだいじょ……」


「あーごめんなさい! あたしとなっちゃん、ちょっとこれから用事があるんでー」



 七瀬が割り込んできた。そういえば昨日、付き合うって約束したな。

 そんな俺達に明らかに動揺している会長。



「そ、そうなの。珍しいねあんたたち」



 俺と七瀬に交互に視線が行き交う。



「わたしは平気ですが……どうしましょうか」



 葛西先輩が会長にたずねる。音和は口を開けて俺を見ていた。



「あ。すまん音和。ちょっと七瀬に付き合う約束してて。そうだ会長!」


「え? ああ、なに」


「音和を昼メシ連れてってもらえないかな」


「……そうね。なんでもあんたとセットで考えるのは良くなかったわ。穂積は予定ある?」


「……今なくなりました」



 あてつけられた。



「じゃあ、一緒にお昼行こうか。3年ばかりだけどあたしも詩織も、あんたのこと可愛いと思ってるから心配ないわよ」


「……ありがと」



 明らかに落胆しているが、いい傾向だ。俺離れのためにも頑張ってもらおう。

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