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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第5部 疾走するアオハル
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11/4(金) 日野 苺⑥

「いちごもういいんだよ。試さなくてもいい。どんないちごがなにを言ったって、虎蛇会は大丈夫だから」



 知実くんの優しい声に、止まりかけた涙がまた溢れた。



「いやだ! こんなにダメでくそ野郎で、自己中で……。こんな自分、虎蛇会のみんなと釣り合わないんだよ! うあああぁーーーーっ!!」



 ずっと心につっかえていた音和ちゃんの腕のなかで、なんでこんな本気で、安心して泣いてるんだろう。


 どうしてあんなにも言われたのに、音和ちゃんはあたしに優しくしてくれてるんだろう。


 全然なにが、どうなってるのか、わかんないよぉ!



「いちご、ジョハリの窓って知ってる? 人って4つ、自分の性格を持ってるんだって」



 唐突な知実くんの言葉に、泣きながら首を振った。



「『自分が知っているけど、他人は知らない自分』、『自分が知らないけど、他人が知ってる自分』、『自分も他人も知ってる自分』、『自分も他人も知らない自分』。だから、いちごが嫌だと思っている本来の自分も自分のたった一部で、すべてではないんだよ。みんながいちごを優しいって言うように、お前は気づいてないかもしれないけど、愛されてるいちごも確かにいちごなんだ」


「っ! ひっ、うぅ〜〜〜〜!!」


「まだ気づいていない未知な部分もあることだし、ひとつの面だけ見て、自分を否定しなくてもいいと思うよ」



 音和ちゃんが強く抱きしめてくれて、こんなに泣いているのにあたしは崩折れることなく立てている。



「あ、たし……っ、高校生活諦めてた。なのに諦めさせてくれなかった知実くんは、すごく嫌な人だよ! 青春ごっこ、本当に楽しすぎて。作った自分がそんな楽しいことしてるのが、すごく悔しかった……!」



 これだけは嘘はついちゃだめだって思った。知実くんが青春をくれて、本当にうれしかったから。



「それでも無理だよ。いまだに別の学校で(うと)ましがられている素の人格は、やっぱり直視できない!」



 自分を認められないのは自分の問題。呪いは解けることがないから呪いなのだから。



「いちご、それが今日の本題だったんだ。そこに関してはもう大丈夫。学校行って、もうつきまとわないようにお願いしてきたから。な、野中」


「言質も取ってきた。なっちゃんが結構脅してたし、もうあっちからの接触はないだろ」


「……っ!? もしかして怪我って」


「だからこれはチャリだって」



 あの人たちがあたしのせいで、知実くんたちにまで手を出したなら、あたし、なんてこと……!



「日野、男にはケガの理由を聞いてはいけないっていう、暗黙のルールってものがあるんだよ」



 自分もケガしているのに、野中くんが明るく言ってくれる。


 だって、どうやってあの人たちを説き伏せられたの? 今まで誰も立ち向かえなかったんだよ?



 でも……知実くんたちならやっちゃうんだろうな。


 ねえこの謎の信頼感、なんなんだよー!



「大丈夫ですか?」



 しおり先輩が肩を支えてくれる。音和ちゃんの肩越しにこくりと頷いた。



「ファンスタでそいつらに捕まってたこと、気付かずにごめんな。それでも、いちごはそんな様子も見せずに頑張ってたんだな」


「っ、みんな楽しそうだから……雰囲気壊すとか無理だし……」


「そうなんですね。ずっと一緒にいた私たちも、守れなくてごめんなさい」


「ううん、誰のせいでもない。からっ……大丈夫っ」



 ふらふらになりながら、音和ちゃんとしおり先輩から離れて自立してみる。


 二人とも最後まで心配してくれてるのがすごくわかる。



「それで日野。あたしたちはあなたの友だち……としてはまだ役不足かな」



 一歩下がってみんなを見ていた会長が、控えめに尋ねた。



「確かに大人になったら別々の道を歩き、生活も違えば合わなくなることもあるかもしれない。だけどあたしは、体育祭でバトンをつないだこと。夏休み一緒にお風呂に入ったこと。文化祭前に早起きしてあいさつ運動したこと。あなたたちと文化祭を成功させたこと……こんなにも美しい経験、絶対に忘れないわ!」



 生真面目で馴れ合いが苦手な会長が、言い慣れてない言葉を口にしてくれて、体を羽でなでられるようなくすぐったさが駆けあがる。


 そっか……。友だちと会わなくなっても、それはさようならじゃないんだ。


 あたしたちが本気で感情を共有した時間は、大人になってからも振り返られる、人生の一部になるんだ。



「うー、なんで? 『青春』は一生モノだなんて、聞いてなかったよぉー!」



 転校したばかりのとき、おもしろい人たちに出会えて、いいなって思った。


 その分、絶対に嫌われたくないとも思ったから、玄関の間口だけはひとまず広げておいて、心の奥は閉ざすことにした。


 作り物の自分で、どうにか好かれるようにと頑張った。



 本当はそのままの自分を好きになって欲しかった。


 本当はそのままの自分で認められたかった。


 でも失敗し続けていたから、また壊れてしまったらと思うと怖くて。


 それを望むことは、とんでもなく贅沢だと思ってた。



「こんなダメなあたしで……それでもよかったら。どうかあたしと、本物の友だちになってくださいっ」



 みんなが泣き顔で、お互いに顔を合わせて笑う。


 言葉にならないそのやり取りがとても自然で、心地よくて。



「「「こちらこそ、よろしくお願いしますっ!!」」」



 みんながあたしに向かって飛び込んできてくれるのが、嘘みたいにキラキラしていて。


 それはまごうことなき、あたしの欲しかった青春だった。

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