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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第5部 疾走するアオハル
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11/4(金) 日野 苺⑤

 海水浴で水着を着たとき、知実くんに腕のあざを指摘されてどうしようかと思った。けどごまかしたらそれ以上触れられなかったから、他人から見るとその程度なのかもしれない。


 だけど、あたしはいつだって、それを目にするたびにどれだけ胃の中がむかむかして吐きそうだったか!


 それが残っている限り、いじめの呪縛からは逃れられない。


 いくら楽しい毎日でもふと思い出すたび、どれだけ自分の存在がおぞましくて、汚らしく思えて、消えてしまいたくなったか!


 でもそんな気持ちなんて言えなかった。言う必要もない。他人の不幸話なんて、誰も聞きたくないから。



「ずっと助けを求めてた。でも、救いなんてなかった。だからひとりで耐えたし頑張った。だけど、どうしてもいじめは終わることなくて、結局、解決もせず転校に助けられたあたしは……まるで……全然なにも頑張ってなかったみたいじゃん……っ!」



 音和ちゃんがずっと羨ましかった。完全に完全に八つ当たりだって、そんなのわかってるのに。体の震えと共に言葉は止まらなかった。



「だからいちごは自我を出さず、目立たないように……」


「そうだよ! いつか知実くんたちがあたしのこと“普通”って言ってくれたとき、そう見えてるんだって、うれしくてつい笑いそうになって慌てて隠したよ」



 自暴自棄に笑ってみせる。



「高校生なんて、揃いも揃って情緒不安定で感受性過多のバカばっか! そりゃあ心の成長期に同じようなモンスターばかりの集団に放り込まれたら、不完全な感情を振り回してでも、自衛するしかないよね。でも学生時代なんて人生で一瞬だし、あたしは社会人になってからが本番だと思うようにしたから」



 知実くんが一瞬、悲しそうな顔をした。


 なぜかとてもたまらなくなって、あたしは女子たちのほうへと振り返る。



「大人になっても付き合いのある、高校時代の友だちって何人か知ってる? 1人いるかどうかなんだって。それ聞いてうわあって思ったよ、今って超どうでもいい時期だったんだ、悩むの無駄じゃんーって。本当に分かり合える友だちなんて必要なかったんだって思ったら、楽になった。バカに振り回されずに今を無難に過ごせれば、それでいい!」



 みんな呆れたよね、ゆるい系なんて嘘だもん。日野苺はしたたかで、気味の悪い人間でした。


 これで全部終わりだね。疲れちゃった。


 嫌われるのは慣れてるし、もういい……。



 涙を拭ってから目を疑った。

 あんなに心のうちをぶつけたのに、音和ちゃんは目を真っ赤にしながらも、あたしから目をそらさなかった。



「それでも、日野さんが優しいのは本当だと思うから」



 そう言ってあろうことかあたしのことを抱きしめた。


 戸惑って、みっともなく口をパクパクさせていたのはあたしの方だ。



「だって、じゃなければ、あたしが辛かったときに本気でかばってくれないし、大事な大事なぬいぐるみをくれたりしないよ。それに……中村さんビビってた。もういじめはやめなさいって、いつか言ってくれたんだよね?」


「っ! それは違う。音和ちゃんのためじゃない! 優しくしておけば、あたしがいい人に見えるから……全部自分のためなんだよ!」


「それでもいいよ、ありがと。すごくすごく救われたの」



 音和ちゃんの腕から逃れようとするけれど、全く逃がしてはくれなかった。服の上からでも伝わってくる温かさがまるで毒のように、心に苦々しく溶け込んでいく。



「会長のことだって、利用価値があるから手伝ってただけだよっ!」


「そう。日野がバイトを休んで協力してくれて、自分の仕事以外のことも率先して動いてくれて、とても助かったから。もしあなたに利用されていたとしても、瑣末(さまつ)なことだわ」


「な、なんで? いつもみたいに、外道呼ばわりしたらどーですか! 意気地なしっ! 詰めが甘いから、あたしにつけ込まれるんですっ!」


「いちごちゃんはいつも気づくと隣に来て、体調を気遣ってくれましたよ♡」


「それはだって……しおり先輩が倒れたら、迷惑だからっ!」



 もう……やめて。そうやって、優しくしないでっ!



「あたしは深い話も聞いてもらったよね。いっちーといると、居心地がいいんだ」


「違う。七瀬ちゃんが勝手にしゃべるんだよ! 別にちゃんと聞いてないからね! ち、違うの、あたしは、自分さえ良ければそれで……」



 みんなが上っ面のあたしを好きって思ってくれていても、本当のあたしはそんなんじゃない――!

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