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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第5部 疾走するアオハル
291/301

11/4(金) 日野 苺①

  ◆◇◆◇◆◇




 祝日明けの今日。知実くんと会うのは気まずいなと思ったけど、6限のHRが終わっても学校に来なくて内心ホッとした。


 友だちでいようねって言ってもらったのも自分が望んでいたことのはずなのに。勝手に落ち込むとか矛盾しすぎて、バカみたいで恥ずかしかった。


 顔、合わせたくない……。でもさすがに明日は来るよね?

 どうしよう、いつもの自分でいられるかな。


 今日はバイトも休みだし、虎蛇に顔出してみようかな。誰かと話しているほうが気がまぎれるかも。


 そう決めて、カバンに教科書やノートを詰めていると、



「あれ、なっちゃん来たんだ」



 前の方で男子たちと話していた野中くんの声が耳に入った。



「いちご、一緒に来て」



 いつの間にか目の前まで来ていた知実くんに、手首を取られた。


 言葉を返そうと顔を見てびっくりする。



「え、知実くん!?」



 顔中にガーゼを貼っていて、ところどころから紫のあざが見えて痛々しい。そういえば野中くんも顔に大きな絆創膏を貼ってたけど、二人でケンカしたとか!?


 理由を知ってそうな七瀬ちゃんを見ると、複雑そうにあたしたちを見ていた。


 手、握られたままだ。


 クラスの人もあたしたちに注目してるけど、勘違いされたくない!


 慌てて手を引くけど、手首を掴む力が強くなって逃れられない。



「いちごの青春回収ごっこ、今日で終わりにしようと思って。その話をしよう?」



 青春回収ごっこ……。確かに期間限定って言ってたけど、別に改まってわざわざ話さなくても。


 困って黙りこくっていると、クラスの人から次々に怪我へのツッコミや冷やかしが飛んできて、その度に知実くんが冗談でかわした。



「ねえ、ずっとここにいると注目されてきついんだけど、そろそろいいすか?」



 知実くんがみんなに聞こえないようにつぶやいた。仕方なく頷き、あたしは自分のカバンを手に取った。




  ◆◇




 向かったのは屋上だった。ちょっと肌寒いけど、ここなら広い分、息がつまることはない。


 いつもの給水塔にはあがらずに、知実くんは奥のフェンスにもたれかかった。


 あたしは遅れて、知実くんに向き合うように立つ。改めて怪我のひどさが気になった。



「だ、大丈夫? 顔すごいけど」


「うん、これね。男っぽいでしょ」


「野中くんとケンカしたの?」


「え、まさか! 俺たちが? するわけないじゃん?」


「じゃあ誰と? すごい怪我だよっ」


ゲロックス(自転車)で転んだんだよ。ださいよなー」



 んんんんん? 笑い方が超不自然なんですけど?


 怪しみながら様子を伺っていると、知実くんが先に切り出した。



「それよりいちご。青春を回収しようって話だよ! 最近になって急にいろいろ引っ張り回してごめんな。いちごも疲れるよなーと反省してる」



 知実くんが苦笑しながら頭をくしゃくしゃとかく。あたしは大きく首を振った。



「それは全然! 楽しかったし、高校っていいなって思えた。知実くんのおかげだよ。一緒に楽しいこと考えてくれて、付き合ってくれてありがとう」



 思い出すだけで泣いてしまいそうな、キラキラした日々。

 それは全部、確かに宝物になった。



「でも、俺、中途半端だったかなって……」



 知実くんは申し訳なさそうに口を曲げる。


 もしかして……ずっと不安だったのかな。


 その優しい気持ちに泣きそうになる。



「あたしがいちばん望んでた青春ってね、“本物の友だち”ができることだったんだ。だからね、本当はもっとずっと前から叶ってたんだよ。それは、知実くんが友だちになってくれたときから。えへへ、ありがと。もう充分すぎるほどもらっていたんだよー!」



 感謝はあれど文句だなんてとんでもない。だから思いつめないで。

 この気持ちが伝わるといいな……。

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