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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第1部 自慢のおじいちゃん
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5/27(金) 芦屋七瀬④

 彼女はエレベーターで3階に降りたようだった。

 それを確認して、俺は一気に階段を走った。


 ポニーテールを目印にフロアをうろついていると、ひとつの病室の前で立ち尽くしている彼女を見つけた。



「……」



 ここまで来るとストーカーだな。訴えられると困るし、その前に声かけるか。



「七瀬~」



 それと同時に七瀬が病室のドアを開けた。開けながら、驚き引きつった表情で俺を見る。



「よお……タイミング悪かっ……た?」


「えっえっ? なっちゃんなんで……ここに……」


「ほら俺、貧血系男子だから」



 薬の袋を掲げる。七瀬は横目でそれを見て、面倒くさそうにため息をついた。そして俺の腕を引っつかみ、病室に引きずりこむ。


 室内でよろけそうになりながらバランスをとっていると、「責任とってもらうからねっ!」と、七瀬が耳元でささやいた。


 責任てなんなんだ、大げさな。



「おじいちゃん!」



 俺から離れて、七瀬は部屋に1つしかないベッドに駆け寄った。

 そこに横たわっていた老人はゆっくりと起き上がり、七瀬に気づくと目を細めた。



「ナナちゃん、いらっしゃい」


「なにー元気ないじゃん。ごはん食べた?」


「まずくて食えるかあんなもん。から揚げが食いたいな」


「アハハ、だよねー。今度内緒で持ってきちゃおうか!」



 七瀬は学校にいるときと同じ調子で、老人に話しかけていた。

 こいつはいつでもこうなのか。なんだかそれが、無性にほっとする。


 微笑ましく眺めていた俺におじいさんも気づいて、一瞬、二人の会話が止まった。あわててぺこりと頭を下げる。



「……ほう。ナナちゃんの彼氏かい」


「ああ、違い……」


「ぜんぜんちっがーう!!」



 俺が否定するより早く七瀬は力強く否定した。

 だからなんなんだお前は!



「おじいちゃん? あたしはもっとイケメンが好きだからね」


「おいこら聞こえてるぞ」



 くそやろう、あとで覚えてろよ。



「いやー、わしにはじゅうぶんいけめんに見えるが」


「はあ? おじいちゃん目が悪くなったんじゃない!? レーシックしたら?」



 つかそんなもん入院中の老人にすすめんなよ。



「入院する手間もはぶけるね♪」



 そういう問題じゃないしたしか日帰りだしあれ。



「さっきからブツブツうっさいな」


「はっ!?」



 どうやらモノローグがお口からこぼれていたようです。



「……おじいちゃん今日もお話し聞かせて?」



 七瀬はベッド脇に腰掛けた。

 俺も近くのイスに座る。

 老人は目を細めて、指でアゴをなでる仕草をした。




それはある男の恋の話だった。


男は好きな人と夢を達成させるために生きてきた。


男は古生物学者だった。


そして、この街でずっと助手と化石を掘っていたそうだ。


助手はその後、彼の人生のパートナーになった。


夫婦になってからもそれが休むことはなかった。


35年前、彼らは大きな化石の全身骨格を掘り当てた。


それは見たことのない恐竜の骨だった。


全身がきれいに残っていた化石は、街の博物館に展示された。


だが実は1ピース、足りていなかった。


それを掘り出したところで土砂崩れが起きて、化石は大量の土の中に埋まってしまったのだ。


幸い夫婦は二人とも無事だった。


仕方なく1ピースだけ足りていない化石を世に公表した。


公表するには十分すぎるくらいだからだ。


そしてその事件があったおかげで夫婦の愛は深まり。


夫婦の名は街の博物館にも刻まれることになった。



  ◆◇◆◇◆◇



 病院のエントランスをくぐるとすでに暗く、高台から見える街は、クローバーの花畑のように街灯がぽんぽんと咲き乱れていた。



「七瀬んちどこ? 俺、駅に行くけど」


「あたしここからバイクだよ」


「そっか、じゃあ明日な」


「あのさー、なっちゃん」



 別れようと背中を向けた矢先に呼び止められる。



「なに? 便所なら」


「違うわっ! ……明日、練習終わったら付き合って欲しいんだけど。予定ある?」


「いや、別になにも」


「だよね!」


「だよね!ってなんだ、だよねって」



 うししししと歯を見せて笑うと、七瀬は手を挙げた。



「じゃあ、また明日。学校でねー!」



 手を振りながら駐輪場に向かう背中をチラリと見て、俺も駅に向かうために歩いた。


 うーん。

 これは、デートの誘いなのだろうか。

 俺は考えを巡らせながら病院の門をくぐる。


 でもその前に今日のあいつの埋め合わせ、どうするか考えないとたぶんやばい。

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