表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第5部 疾走するアオハル
275/301

10/28(金) 日野 苺⑦

 突然、上半身に適度な重みを感じ、閉じていた目をゆっくりと開けた。

 いちごの頭が俺の右肩付近にある。


 えーと。ハグされてるけど。どういうこった?



「知実く……っ、ごめん。もう、やだよ……っ」



 いちごが胸の上で、嗚咽を漏らしながら泣いていた。


 恐る恐る右手をあげて、生まれたばかりの赤ちゃんを触るくらい慎重にいちごの頭を撫でた。


 特にいやがられなかったから、そのまま撫でながら考えてみる。


 それで、たぶんだけど、結論が出た。


 あーこれ、いちごにとって渾身の、“いやらしいこと”だわ。



 無理して一生懸命俺の要望にこたえてくれたのかと思うと、笑ってしまいそうになった。


 一旦、眉間を寄せて堪えて、なるべく心を落ち着かせて。



「なんで泣くの。そんなに嫌なら、こんなこと、やめたらいいのに」


「ちがっ……!」



 この子、本当に天然でおもしろいわ。

 ……だからずっと、この子のこと目で追ってたんだろうな、俺。



「いちごちゃん。顔、見せて?」


「泣いてて変だから、無理」


「大丈夫だって。いちごはどんなときでも可愛いよ」


「うう」



 全然顔をあげてくれない。俺の肩がそんなに好きなのだろうか。妬いちゃうぜ。



「ほら、俺眠いし。あんま見えてないから」


「うう……」



 やっと肩から顔が離れてくれた。


 だけどしっかりと体を起こせばいいのに。

 恥ずかしがってちょっとしかあげないから、逆に顔が近くなる。


 髪をすいていた手を頬に移して、流れたままの涙を親指でぬぐった。


 それでもあふれた彼女の涙が顔に落ちて来た。


(嘘つき。目、バッチリ開いてるじゃん)


 そんな目で責められたけど、超絶に慈愛に満ちた瞳で封殺しておいた。



 それからまばたきを3回する間、瞳に吸い込まれていくように。


 最後に目をつむったとき、唇が湿る感覚がした。





 人生でいちばん重く感じたまぶたをゆっくりと開けて、真っ赤になってボロボロと泣いている女の子を目の前に捉えて。最初に感じた気持ちがまさかの“絶望”だったから。


 俺はふたたびまぶたを閉じ、暗闇に意識を落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ