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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第5部 疾走するアオハル
274/301

10/28(金) 日野 苺⑥

 

  ◆◇◆◇◆◇




 目を覚ますと、よく知ってる保健室の天井があった。


 今、何時だろう……。


 目だけで周りを見て、ぎょっとする。

 ベッドの脇のパイプ椅子に腰掛けて、ベッドに寄りかかってめそめそ泣いてるやつがいた……。


 気づかれないようにそっと左手を伸ばす。


 そして彼女の腕を勢いよく掴んだ。



「!」



 いちごが息を詰める。



「お前、なんで泣いてんの?」



 しっかりと目を開けると、顔を上げたいちごは、目をめちゃくちゃ真っ赤に腫らしていた。



「ともみ、くん……?」


「ああ不覚。寝顔見られた……」


「そこはもう良くない?」



 彼女は、あははと脱力しながら笑った。



「あれ、いちごだけ?」


「うん……」



 申し訳なさそうな返事が返ってきた。


 カーテンの向こうも静かで、保健室には俺たち以外に人の気配がなかった。


 ふう。と、一度深呼吸する。



「俺、いちごとデートしたかったんだと思う」



 言ってみてから、俺、結構根に持つヤツなんだなと自分でも頭が痛かった。



「……ごめんね」



 彼女は素直に謝った。俺がスネてたのは伝わっていたらしい。


 ……クッソ恥ずかしいけど。


 わかってもらえたならよかったですわ。



「あーあ、いちごといやらしいことをするつもりだったんだけどなー」



 腹いせに便乗して、ひどいセクハラもしといた。顔でも真っ赤にすればいい。


 けれど、いちごの目は冷めていた。


 それどころか、軽蔑するような視線が突き刺さる。


 え……あれ?



「……それみんなに言ってるよね? 求婚とかシメられたいとか、ハグしたいとか」


「げ」



 身に覚えがありすぎて変な汗出てきた。



「げ。じゃないよ。もー……」


「あのう……もしかして女子って、そういうのぜんぶ共有されているんですかね……?」


「知実くんのこと、結構話題に出てるからね? 自業自得」



 ギャフンと言わせようとして大墓穴掘ったわ。俺、終了のお知らせ。



「……」



 いちごの沈黙は、怒ってるのか、呆れてるのか。全然わからなくて、重苦しい空気に耐えられなくなってきた。



「セクハラしてごめんなさい」



 素直に謝っておいた。

 俺キモいし、優柔不断で最低だし、アホな言い方しかできないけどさ。



「あのさ、今だけ。手だけでいいから、貸してくれる? 眠るまででいいから……」



 冗談なら適当なことなんだって言える。でも、本当にして欲しかったことって、伝えるのにはすごく勇気が必要なんだよ。


 おそらく耳まで真っ赤になっていただろう、顔が熱かった。

 いちごが立ちあがる。



「……知実くん、まだつらいの?」



 布団から出した左手を、両手で包み込んでくれた。


 半紙を水に浸したときのようにじんわりと、手から安心感が染み渡る。



「薬飲んだから大丈夫。文明はうらぎらぬ」



 目を閉じたまま、答える。



 ほたるがずっと言っていた心細さを2学期になってから常に感じていて、気が緩むと泣いてしまいそうになる自分がいやだった。


 彼女が目の前に捉えていた死が、前よりも身近に見えてきたからだろうか。



 だから、一時でもありがたかった。自分のそばに信頼できる人がいることが。


 ひとりじゃないのはわかっているけど、ひとりが怖かったんだ。



 ……全部ほたるに言ってたことのブーメランだよ。俺バカだよな。

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