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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第5部 疾走するアオハル
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10/28(金) 日野 苺②

「は?」



 思いもしなかった要望が出て、変な声が漏れてしまった。



「あ、音和ちゃんだ。おはよー!」



 音和の家に手を振るいちご。


 おいおいおい、そんなことある?


 普通にいちごが何を考えてるのかわからない。



「いやいやいや、ちょっと待って、どういうこと? なんで、七瀬が出てくるの?」



 脇目もふらずにいちごの肩を掴むと、彼女は驚いてそれを振りほどき、手のひらを前に出して、俺と距離を取った。


 その行動がまた心にズキンと痛みを走らせる。



「……えっ、なんで知ちゃん怒ってるの?」



 そばまでやってきた音和が、引きつった顔で俺たちを見比べる。



「……あたしの願いが、それだからだけど……」



 そんな俺の心うちなんか知るよしもなく。

 いちごは俺から目をそらすことなく恐ろしく落ち着いて、恐ろしく優しい声でそう言った。


 頭が真っ白になって、ただ立ち尽くしてしまう。



「このお願いは“遊び”でしょ? 前から言ってるけど、二人仲いいし。デートしたらどうかなって、単純に気になっただけ!」



 嘘だろ、なんでまだ七瀬推しなんだよ。これわざと?



「全然わけわからん。毎回違うって言ってるし」


「えっと、そんなに七瀬ちゃんとデートは嫌だった?」


「そういうわけじゃないけど……」


「二人とも息ぴったりだし大丈夫だよ〜。それに最近七瀬ちゃん元気ないし……ね? デートしたら報告してよねっ」



 ……なにこれ。なんでそこまで言うの? 俺がおかしかったの? 俺が勘違いしてただけってこと?

 クッキーもらって、特別だと思って、舞い上がってたってこと?


 うはあーーーーー。めっちゃ恥ずかしいんだけど!

 つか、やだ。今すぐ消えたい……。



「知ちゃん、日野さん……とりあえずがっこ、行こ?」



 音和の声がどこか遠くで聞こえたような感覚だった。




 ………………


 …………


 ……




「おはよー。ねえなっちゃん、これどう思う?」



 いちごと妙な雰囲気のままで登校し、教室に着いてすぐに俺だけクラスの男子に捕まった。


向けられたスマホにはくだらないSNSのネタが載っていた。


 一緒にいたいちごは立ち止まることなく、そのまま自分の席に着いた。



 クラスのやつらとバカ話をしていると、気持ちも少し落ち着いてきた。


 俺がちょっと仲良いって勘違いしていただけで、いちごはいちごで、気を使って言ってくれたことだもんな。


 あそこで怒るとか俺まじでないし、キモすぎ。挙動不審すぎるだろ……。


 冷静になると、自分の行動がひたすらにキツい。


 話が終わって自分の席に向かう途中、いちごの席の脇を通る。


 いちごは緊張したように前一点を見つめて、不自然に肩を縮ませて座っていた。



「さっきはごめん」



 すれ違うとき、小さな声でそう告げる。


 ガタッと椅子が床をこする音がして振り返ると、いちごも振り返っていて、悲しそうにぶんぶんと首を振った。



「え? なんで今にも死にそうな顔してるの?」



 俺は苦笑いするしかなかった。

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