5/27(金) 芦屋七瀬②
しかし男子よりも速いだろういちごが加わったことでかなり希望が見えた。
「会長……」
「チュン太……」
俺と会長は手を取り見つめあった。
勝つ。そして、生徒会や学生たちに虎蛇を認めてもらうんだ。部田凛々子が会長の、虎蛇を!
「ていっ」
音和が俺達の手の間にチョップを入れて引き離した。
そこでようやく二人とも我に返る。
「さっそく練習を始めよう。みんな土日の予定は?」
会長が全員の顔を見渡すと、すぐにいちごが申し訳なさそうに手を挙げる。
「ごめんなさい、あたし週末はバイトがあって。でも早朝に自主練しておきますから」
いちごなら心配ないだろう。記録が虚偽でなければ放っておいても速い。
「わかった。日野はもともと虎蛇もバイト優先という話だったしね。でも自主練の方もできるだけお願いできる?」
「もちろん手抜きしません。100m、10秒出します!」
世界記録出すつもりかお前は。
次に手を挙げたのは七瀬だった。
「あたしも土日無理め~」
「おい、なんでだよ」
「でもおかしくない? 土日まで出るって急に言われてもさ〜。こっちにだって予定くらいあるし」
「予定?」
「……別にいいじゃん」
七瀬はプイとそっぽを向く。その態度に少しカチンときた。
「お前がマイペースなのは知ってるしそこがいいところだと思ってるけど、虎蛇の存続の危機わかってんの?」
「えー個人でがんばればいいじゃん。あたしもいっちーみたいにひとりでやるからー」
ダメだこいつ絶対やらないわ……。
「芦屋」
黙って話を聞いていた会長が口を開いた。
「プライベートの時間を使わせてもらうのは申し訳ないと思う。だがm虎蛇はそういうところだと知って入っているわけよね?」
「……」
「用事があるのは仕方ない。でも今日から虎蛇は、文化祭実行委員の肩書きを凍結されたのよ」
「それさっき聞いたー」
面倒くさそうに答える七瀬に、会長はため息を挟んだ。
「委員会のために特別に使用許可されていた施設。例えば倉庫舎などもしばらく使えなくなったの」
書庫って……凛々姉が葛西先輩を釣るためのエサにした場所だっけ。なんでそれを今持ち出すんだ?そんなの、七瀬が食いつくわけないだろ。
「なんですってーーー!?!?」
ガタッと大きな音を立ててイスを立ち上がったのは、やはり葛西先輩だった。頭を抱えて、この世の終わりみたいな顔を!?
「みなさんお願いします!! 絶対、鍵を奪い返してくださいっ!!」
先輩の豹変ぶりに全員、どん引きして言葉を失う。
別の人だけど釣れすぎだろ!?
そんなカオスな空気の中、七瀬が小さくつぶやいた。
「……分かった。できるだけ練習行くようにします」
会長の顔から緊張が解けた。
「ありがとう芦屋。穂積は?」
「知ちゃんが行くなら行ける」
音和は通常だった。
「マジかー。いや、でももう大体は……」
まだ嫌そうにぶつくさつぶやく七瀬は気になるが。
会長の視線が音和から俺に動いた。
「今更だけど、チュン太は大丈夫よね?」
「もちろん」
答えてから葛西先輩を見る。
先輩は書庫を守ってもらえると思ったみたいで、目をキラキラさせていた。
「葛西先輩も来てくれますよね?」
その問いに眉をよせ、首を傾げる。
「? でも私、走れないし、日光も苦手で……」
「無理じゃなければ日陰でもいいので、俺たちのこと見ていて欲しいんです」
葛西先輩の頭はきっと混乱しているんだろう。目をパチパチとさせている。
「そんなの、お邪魔では……?」
「なんで? 俺達、チームじゃないっすか」
やっと意味が伝わったらしい。顔が少しずつ赤くなっていく。
そして俯き、こくりと小さく頷いた。
練習は翌日からになった。
それは虎蛇会が初めてみんなで活動をした日だったといっても、過言ではないんじゃないか、と思う。