10/23(日) 日野 苺⑦
帰宅後、すぐ音和にメッセを送った。
海の家に腰掛けて待っていると、ほどなくして音和がやってきた。
俺の隣に座るがどちらも口を開くことなく、雲の間からうっすらと漏れる月明かりで、妖美に艶めく海をしばらく眺めていた。
「夜の海は波の音がよく聞こえるんだね」
沈黙を破った音和の声は震えていた。
海辺の気温は10度もないけど、震えているのはきっと、寒さのせいだけじゃないだろう。
「今日楽しかった」
「いい打ち上げになったな」
「生徒会と遊ぶ日が来ると思わなかった」
「本当だよな。お前も生徒会のこと、許したんだな」
「謝りに来たから、メガネのお尻蹴って、おあいこにした」
「はは。虎蛇的教育がしっかりなされているようで……」
これでスッと恨みを忘れられるのがすごいよな。
ぶるっと震える音和の肩に、自分の上着をかけてやる。そして暗く、星もあまり見えない空を仰いだ。
「長らく待たせたけど。ずっと見てたよ、音和のこと。お前が成長していく姿は、自分のことのように嬉しかった」
「うん」
「でも、ごめんな。音和はずっと、可愛い可愛い妹だった……」
「……っ」
「ただね、俺の人生で一番長く一緒にいた女の子で、それは最後まで変わらないから。だからわがままを言わせてもらえるなら、できれば最後まで俺の人生にはいてほしい。お前を失いたくない……っ」
瞬きと共に、思わず涙がこぼれて焦る。
音和なら、嘘でも付き合うことができた気もする。
うまく言えないけれど……。全てを許して、受け入れてくれるのは彼女だろう。
だけど、そんな彼女だからこそ甘えたくなかった。
「……実はダメかなって、ちょっとわかってた」
小さく鼻をすする音が聞こえた。
「文化祭の屋上で叫んでくれたとき。知ちゃんはあたしのこととても大事にしてくれているけど、違うんだろうなって、思った」
「……ごめん」
「ううん。知ちゃんって、あたしに弱いところ見せたくないんだよね。カッコつけてたいんだよね……。だったら……」
ふたりの間を引き裂くように大きな風が通り抜けて、前髪が視界の邪魔をした。
流れる髪を押さえたとき雲から半月が覗いて、音和の顔が照らされる。
それは今まででいちばん大人びていて。俺は息を飲んで、その横顔から目が離せなかった。
「ずっと、あたしの、自慢のっ。かっこいい人でいてよね! ……大好きでした!」
音和は涙をこぼしながらも、笑っていた。




