10/19(水) 日野 苺④
「野中くん大丈夫かな?」
「ああ、うん。あいつはタダじゃ死なないから」
「でもさすがに学校外だし……」
「んー、あ、来た来た」
スマホが鳴って、知実くんが画面を見せてくれる。
うんち
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良かった、こっちも平気。
無罪放免。
やっちゃんとメッセ友にな
ったわ
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14:21
「??」
「あいつ老若男女に好かれるから」
「でも、あれで友だちになる!?」
「すごいよね?」
「てかてか、名前なにこれっ!?」
「あ……ずっと表示名変えてたんだよな、忘れてたわ」
「知実くんも忘れる!?」
顔を見合わせてまた笑った。
メッセの表示名を戻して、知実くんはペットボトルのお茶を開ける。
「なんか今日、久々に元気ないちご見た気がする」
「えっ、そうかな」
「うん、最近クラスでもおとなしくない? なんか、周りに溶け込みすぎてるような」
「自分じゃわかんないかも」
至近距離で見られているのが急に恥ずかしくなって、手元のペットボトルに視線を落とした。
「ダメじゃないけど、いちごはもっとそういうの出していけばいいのにとは思うけど」
「別にそんなつもりないよ〜。それにあたしよりも今まで他の子のほうが大変だったから、目立ってなかっただけじゃないかな。でもほら、今はあたしがメインヒロインだから」
「えっ、なにそのメタっぽい発言、怖いんだけど!?」
「めた? あたしが青春回収するために、知実くんに付き合ってもらってるって話だけど……」
「ああ、そういうこと。いや、ならいいんだけどね!」
知実くんはなぜかあたふたして、お茶のふたをしめた。
「さて、今日はこんなだし、解散だなぁ」
「そうだね。心配してくれてありがと」
「うん」
あたしも最後に、自分のお茶に口をつける。呼吸はもうすっかり落ち着いていた。
………………
…………
……
二人で駐車場を出て、家方面へと向かう。知実くんはカバンとお菓子を両手に持って大荷物だった。
「はあ。なんかごめんいちご。今日、全然遊べなくて」
「え、全然だよ、楽しかったし!」
「マジかよ、天使なの?」
「マジマジのマジだよ。制服でこうやって、知実くんと並んで歩いてるだけで充分素敵だから。思い出になったよ」
「女神だったわ!!」
何かスゴイことをしたかったわけじゃない。こうやって友だちと一緒に、知らない道を歩くことだけでも。あたしにとって特別なことだから。
知実くんは少し笑って、独り言のように、
「本当に、いちごは手がかからない、いい子だよなぁ〜」
「!」
――ああ、本当に良かった。
「またリベンジしような」
「うん、次は放課後にしようね」
それは誰にも迷惑をかけない代わりに、誰からも特別に好かれることがないってこと。
あたしはよく知っている。




