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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第4部 お姫様に寵愛を
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9/28(水) 部田凛々子③

「……ちょっと、とんでもなく無理なことを言ってみても?」



 なんだそのアナ雪みたいなセリフ。



「あ、うん。無理でもなるべく可能なことなら聞くけど」


「あれ、やって欲しい」


「最新モノマネのことかな? やべえな。体育の池田くらいしか……イエーーーーー!!! ボコオ!!! サンシャイーーーーッンン!!! イッケーーーダッ、ウアーーーー!!」


「モノマネっていうかそれは池田先生のネタよね。似せてもないし、うるさい」


「正論つら!!」



 視線が死ぬほど痛い。もっとおもしろギャグ用意しておけばよかった。猛省。



「で、あれって何?」


「……今ここで、応援演説、して欲しい」



 は? マジで言ってんの!? はっずうううう!!!!

 さっき「ラブレターみたい」って言ったばかりよね!? なんなの凛々姉、乙女なの!?



「……嫌なの?」


「いえいえめっそうもない! 凛々姉のことならなんぼでも褒められるわ〜容易いことでよかったな〜!! ……でも、いいの? 思い出してしんどかったり」


「ううん。あれはきちんといい思い出だから。だからもう一度、聞かせて欲しい。もう一度、あそこから気持ちをやり直したい」


「それなら」



 俺はえりを正して、凛々姉と向き合った。


 にこりと笑って、一礼。



「えー……2年A組。小鳥遊知実です。彼女はいません! あ、部田凛々子さんの応援をします!」



 凛々姉が笑う。


 さて、何を話そうかなあ……。



「高校生の虎蛇会の凛々子さんは……相変わらずとても怖いです。


 中学からアップデートして、今では魔王めいていると感じています。

 あの、演説中は足を踏まないようにね!


 ……アップデートはほかにももちろんあります。


 今は、たくさんの友だち、そして仲間に囲まれて、


 虎蛇会会長として、学校を引っ張ってくれています。


 それは彼女に知性があるから? 天性のカリスマ性? 誰もが羨むほどの美貌のおかげ?


 ……彼女はそんなものに一度も頼らなかった。


 すべて彼女が積み上げてきた、純度の高い努力で成したものだ。


 だから、天才でも魔法使いでも、一朝一夕で虎蛇会は作れません。


 それは、たしかに彼女が人生に粉骨砕身した賜物なのですから」



 まっすぐに見てくれるたったひとりの聴衆に。優しく、続ける。



「上に立つ者はいろんなものを背負わなきゃいけないのかもだけど、もうひとりじゃないよ。いつでも凛々姉が背負ってるものごと背負うから。もうあのときみたいにガキじゃないし、女の子ひとり背負うくらいわけないからさ」



 言い終わってしばらくしても、凛々姉が何も言ってくれなくて、ちょっとずつ恥ずかしさが押し寄せてくる。



「あー……うん。そういうことで、応援演説っぽいものを終わります!!」



 さっさと締めようとすると、やっと、くすくすと笑い声が聞こえた。



「ほら。ラブレターじゃん?」


「ちちちち、ちがいますけど!?」


「……はあ。クサくて笑えて、涙が出そう」


「ちょっと!! 本当にひどい!!」



 本当にひどい!!!(心の中で二度目)



「はいはい!! 今日も疲れたし、早めに帰って休もうね、そうしよう!」



 はい、話を変えようと必死ですよ……。


 くるりと手すりに背中を向けると、凛々姉がぽつりと呟いた。



「……てもいいけど」


「え、なに??」



 ささやく声を拾えなくて聞き返す。

 凛々姉は少しだけ黙ってからもう一度、



「今なら……ハグ、してもいい」



 風になびく髪を押さえる彼女の表情を、暗闇が隠した。



「疲れてるし……」


「!?」



 あ、ハグでストレスがなくなるってやつね。

 あれ冗談だったんだけど、よく覚えてたなー。スベって恥ずかしかったから忘れてほしかったやつだ……


 ってか、ええーーーーーーーー!?

 い、いいいいい、えええええ!?


 やばい、知性が消滅した。


 えっ、こういうとき、男はどうしたらいいんですか??



「……あんたが来なさい」


「はい!! ありがとうございます!」


「なんかむかつくわね」



 5歩の距離のあと、凛々姉の体に恐る恐る腕を回した。

 密着して、彼女が腕に力を込めてくれているのがわかった。


 はは。そうだよな。


 人類最強だと思っていた人は、腕の中では普通の女の子だった。


 いくらでも、あなたが笑って過ごせるなら。いつでも、応援をしよう。


 ふう。というため息のあとに。



「……小鳥遊知実は、あのときからずっとかっこよかったよ」



 俺のミューズの声が耳元で心地よくはじけた。

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