表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第4部 お姫様に寵愛を
207/301

9/26(月) 部田凛々子⑨

「凛々姉の文化祭への思いは幻じゃないよ! プライドを持って作ってきたんでしょ。きちんと形にもなってる。だってほら、今の虎蛇会は間違いなく、部田凛々子が作ったものだよ」


「でもあたしには、自信が……」



 悔しそうに、凛々姉が振り返る。



「自信自信って、何言ってんの。あんた最初から、そんなにすごくないよ」



 その顔がサッと曇る。



「……って思えば、少し楽にならない?」


「え……?」


「凛々姉は完璧主義すぎるんだよ。頑張ってるからこそ、わかりやすく結果を求めてしまうんだろうけど。でも、それはもはや呪いじゃん。すごいの呪いから解放されてみれば、楽になるんじゃない?」



 凛々姉はショックを受けたような顔で、視線を漂わせる。



「あたしは……すごくない……」


「すごくないし、弱い」


「すごくないし……弱い……?」


「うん。すごくなくても、弱くてもいい!!」


「っどうして!? 矛盾してる。文化祭の指揮をとる者が、すごくなくて弱くていいなんてありえない! いい加減なことを言わないで!!」



 まだ気付かないのかよ。視野狭いなーもう。


 凛々姉の前へ歩み寄り、肩をつかんだ。



「それはひとりの場合だろ? 俺たちがいるじゃんか! みんなでカバーし合えば、ひとりではできないこともできるようになるんだよ。どんなに努力しても完璧な人間はいないし、いると思っているなら幻想だ! もし、それでも自信がないって言うなら、もうどんだけ俺たちのこと信用がないのって怒るよ!?」



 凛々姉の顔が一瞬、くしゃっと歪んだような気がした。けれどすぐに下を向いて、髪の毛で顔を隠してしまった。

 泣いてるのだろうか……。



「凛々姉……」


「…………肩、痛いんだけど」


「あっ、ごめん」



 静かな抵抗を見せる凛々姉の声に我に返り、慌てて手を離した。夢中で、思いっきり掴んでしまってたらしい。



「……10倍返し、だったかしら」


「えっ?」



 突如、体が凍るような恐怖を覚え、思わず後ずさりをしてしまう。



「……正直、まだぜんぶ受け止めきれていない。でも……間違ったあたしを引き戻してくれてありがとう」


「!」



 ぎこちないけれど、凛々姉の目には静かに光が宿っていて。胸が一度だけ跳ねる。



「……いいよ、どれだけでも返してもらおうじゃん。ただし全部終わったらだからね?」



 いや、このドキドキは、絶対に恋とかじゃないけれど。



「というか、凛々姉って本当に妖刀出せるのね……」


「? 出るわけないでしょう、そんな量子力学完全無視みたいなもの」


「!? だって、野中おびえてるぞ!?」



 なんだ俺、ドキドキは身の危険をあんじてなのか!?


 机の向こう側に隠れて頭を出し、目で抗議している野中に苦笑してから、目の前の少女に視線を移した。

 迷子だった凛々姉の心が戻ってきた。そんな気迫が届いた。



 弱さは恥じゃないし誰にでもあるもので、ようはそれに向き合えるかどうかだ。

 部田凛々子の心は飴細工のように繊細で脆い。けれど、彼女はそれを受け入れる強さを持っていた。

 聡明な彼女のことだからきっと、それを強みに変える手段を、すぐにでも見つけるのだろう。そう思ったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ