9/22(木) 部田凛々子③
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もうこんな時間か……。
廊下から外を見るとすでにあたりは闇に支配され、うすぼんやりと木の形やベンチが浮かび上がっていた。
暗くなる前にみんなを解散させ、ひとりで作業を続けていた俺は、PCを片付けて保健室に向かった。
静かに保健室に入る。ベッドに寝かせていた凛々姉を迎えに行くと、布団がもぞもぞと動いた。起きていたらしい。
「凛々姉、気分はどう?」
「……1日無駄にしたから最悪ね」
布団の中から恨めしそうな声が聞こえた。
「んじゃ月曜に早く来て、一緒に整理しようぜ」
あんまり茶化す雰囲気じゃなかったので、優しく声をかけた。
………………
…………
……
すっかりおとなしくなっていた凛々姉を家に送ってから、夜道をひとりで歩いて帰る。
さて、生徒会をぎゃふんと言わせてやるとかにおわせたものの、あいつらの動きはどうやって掴めばいいのか。今までの事件の証拠もまるでない。
背の低い細い目の男が鍵を借りるとき、俺の名前を語ったということしかわからん。その情報だけで特定できるか? 生徒会をつきっきりで監視してるわけにもいかないし……。
俺ってば、超無力。
ひとまずは凛々姉に引っ付いて、支えるしかないか。
家に着き、カフェのドアを開ける。
「知実くんだ、おかえりなさい♡」
ねえ聞きました!? お客さまのみなさん! 何なのいちごの圧倒的若妻感は!!
「あ、いらっしゃいませー! 後藤さんおかえりなさい♡」
もちろん俺にだけのサービスじゃないんですけどね! そりゃ繁盛するわー。
とはいえ、男性客ばかりというわけでもなく、子どもからご老体まで、さまざまな顔ぶれが店内にあふれる。
最近の驚きはというと、あの端っこのテーブル。裏のかみなりじいさんがいちごに骨抜きで、かみなりと呼ばれていた頃の威厳がすっかり消えていたことだった。どこであの怪獣を懐柔してきたのやら。
「ねえねえ、夕方に音和ちゃんが来て、ちょっと会長のこと聞いたけど……。心配だね」
カウンターに座ると、いちごがお水を置きながら話しかけてきた。
「来週はバイトお休みでいいって言われたから、虎蛇手伝うね! だから知実くんは、しっかり会長のサポートしてあげて」
キッチンをのぞくと、母親が親指を立てていた。みなさんご迷惑をおかけします。
「ありがとう。あとちょっとだし、頑張ろうな」
「うん!」
ふわっと笑って、彼女は他のテーブルへと移った。
ラスト1週間。ひとまずはゴンドラがうまく動いて、生徒会がおとなしくしてくれますように。
……今は下手に動くことができない自分が、もどかしかった。