9/20(火) 部田凛々子③
全教室の鍵は、職員室入ってすぐ横の壁にかけてある。そこに虎蛇の鍵も一緒に並んでいた。
一応その下に持ち出し記帳があるけど、誰でも勝手に取れる場所にあるんだな……。
「あんた! 鍵使うなら書いていきなさい!」
台帳を見ていると、鍵に一番近い席の用務のオバチャンが声をかけてきた。
「あ、すみません」
台帳を開いてみる。
「先日、竜蛇会?だかに勝手に人が侵入したって騒ぎがあったからねえ。最近はあたしがここで見張って、書かせてるの。鍵の番人だよ!」
「虎蛇会ですね」
「でも定時に帰るから、放課後はどうなってるかわからないけどねーあっはっは!」
鍵の番人、ゆるいっすねぇ……。
と思ったけど、先週金曜の放課後に、虎蛇の鍵の持ち出し記帳があった。
「……先週金曜の放課後はいらっしゃったんですか?」
「? ああ、車のキー取りに戻ったら、持ち出そうとする子がいて声かけたね」
「ちなみに、“小鳥遊知実”って人、知ってます? “コトリアソビ”で“タカナシ”って読むんですけど」
「珍しい苗字だからね、覚えてるよ。背が小さくて細い目の男の子だったかね。その放課後の子でしょ。それこそ竜兵会?だったかの部屋の鍵を持って行ったね」
「虎蛇会すけどね」
◆◇
「つうわけで、俺の名前使われていましたし、竜兵会だと思われてますよ、ウチ」
「は? 台帳、ザルね……」
アナログシステムの上、生徒手帳を見せるなどの身分証名もなかったもんなあ。
「ひとまず職員室に鍵の件は報告しておく」
「俺、ゴンスなんて言わないからね」
「なにそれ、キャラ設定?」
オバチャンいわく、小鳥遊くんは「鍵、借りるでゴンス」と言い去ったのでよく覚えていたらしい。
目立ちやがって。そいつ絶対、こっそり借りる気ねえだろ!
「チュン太のおかげでわかったことが2つある。ひとつは持ち出しに選んだ日。先週の金曜だった」
「うん。音和のクラスで盗難騒ぎがあった翌日」
「その日、虎蛇は活動停止だったわ。ということは、それを知る人物であるということ」
凛々姉は手元のファイルをなでる。
「もうひとつ、ファイルからプリントを抜き出した理由」
「そりゃ、アイドルの連絡先を知るためだろ?」
「それなら聞くけれど、チュン太がもし大好きな凛々子の部屋にこっそりと不法侵入するとする」
「ちょっと待て!! いろいろと設定がおかしい!!」
「テーブルの上に凛々子の生写真が散乱し、タンスを開けると生下着が豊富に見つかった。ああそこは天国か、はたまた桃源郷か。さてどうする?」
「どうもしねえ!!」
「……あんた、脳みそすかぽんたんなの? ちゃんとシュミレートしなさい。ちょっとした遊びなんだから」
「言っておくが、俺 は 絶 対 に 何 も し な い か ら な」
「そんな、仲間たちを屠られた勇者がダンジョンでラスボスと対峙して『これからお前を倒す』みたいな気迫出さなくてもわかってるわよ。なぜか腹は立つが」
「あくまで、凛々姉の熱狂的ファンという設定、だからな! ……写真と下着か。まあ……1つずつくらい持ち帰るんじゃない?」
「そうね、凛々子の写真も下着も持ち帰る、と。じゃあ凛々子の生枕なら?」
「生枕!? 犯人フェチ度高すぎる!! ええぇ、うーん、それはちょっとデカいから無理。写真も下着もポケットに入るけど、枕は抱えるしかないから見つかるリスクが高い。……どうしても欲しかったら枕カバーだけとか? でもそうすると、大量の写真や下着から1つくすねるのと違って、盗まれたのはソッコーで本人にバレるよな」
「そうね。枕カバーを外して持ち去るというあなたの変態性が知れるとは思わなかったけれど」
「ねえ、今ボクすっごく嫌な予感がするんですけど」
念のため周りを見回す。
「……」
ドアのところに、戻ってきていた七瀬と詩織先輩が絶句して立っていた。
「……おかえり♡」
無駄だと思いつつも、精一杯の愛情を込めてみた。