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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第4部 お姫様に寵愛を
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9/16(金) 穂積音和①

 登校すると、机の上に「ドロボーの席」とマジックで書かれていた。クスクスと笑い声が聞こえるし、中村さんははっきり「ドロボー登校してんだけど」と言った。


 しばらく見つめていたけど、雑巾を持って外に出る。息がつまりそう。胸が痛い。生まれたての痛覚に、戸惑いを隠せない。



「大道具にシンナーあったよ。使う?」



 雑巾を濡らして戻ってくると、隣の二宮くんが大きな液体を持って来てくれた。



「迷惑をかけてごめんなさい……」


「いいって」



 優しくしてもらって泣きそうになった。




◆◇




 木曜の体育が今日に変わったから、1限目から移動だった。


 体育が終わって、更衣室に戻る。すぐリュックを確かめて、変わりない様子にほっとした。

 みんながあたしを避けて着替えている気がする。狭い空間のこの時間、息がつまるようだった。



「私物盗まれてないか見ておこーっと」


「キャハハ、やめなってえ」



 中村さんの言葉に、みんな一斉に荷物を探る。

 念のため、もう一度リュックを調べてみるけど、たぶん……大丈夫。


 瀬田さんとバチっと目が合う。すぐに逸らされた。

 瀬田さん……。あれから、話せてない……。



「てか穂積ー、瀬田ちゃんに謝ったの?」


「そういうのって、ちゃんとしたほうがいいよ?」



 更衣室にほとんど人がいなくなってから、田中さんと水川さんが近づいてきた。狭い室内で、一番奥にいたあたしには逃げ場がない。



「瀬田もちょっと待ってー。謝ってもらおうよ」


「え、あたしは……」



 中村さんが瀬田さんの肩に手を置いた。

 あたしは田中さんと水川さんに両側から引っ張られて、瀬田さんの前に連れてこられた。



「瀬田、さん……」



 おそるおそる声をかけたとき、後ろでピコンとスマホの音がした。動画で証拠、取る気だ……。


 向かい合った瀬田さんは、とても悲しそうな表情をしていた。


 ……。


 ……っ!



「……あたしじゃない」


「はー?」



 中村さんににらまれる。



「誰の机からお財布が出てきたっけ?」


「あたしじゃない。昨日はお昼、田中さんにジュースかけられてすぐに外に出て、帰ってきたの6限の前だよ」


「すぐ出て行った証拠は? 誰もあんたの行動なんか見てないんですけど」


「それに、かけたんじゃなくて偶然なんだけど。超失礼ー!」



 田中さんに足を蹴られた。向かい合っている中村さんが、田中さんを睨む。更衣室に残って遠巻きに見ている人がいるし、動画も撮っているから、暴力を残したくないみたいだ。……それならっ!



「……中村さんってドジだよね。間違えてジュースかけたり、間違えて足ひっかけたり、間違えてぬいぐるみやノート投げたり。体育でも、間違えてボール投げつけるもんね」


「ふざけんな、わざとだよ! ……チッ」



 中村さんの顔が引きつる。わなわなと唇を震わせたあと、スッと表情が消え、あごでほかの子に指示した。隣で動画を切る音が聞こえた。



「……なんなのお前。つうか、お前が人の男にも色目使ってるからだろ! 前みたいに空気になってろよ!」



 ムービーを止めた途端、中村さんが怒鳴った。鬼気迫る顔に、ハッとする。


 ……ずっと怒ってた理由ってそんなこと(・・・・・)? だって全然誤解だし……。

 あ。でもあたしにはそんなことって感じだけど、中村さんはそうじゃなくて、いろいろこじれていったのかな。


 知ちゃん。本当に、言わないとわかんないことだらけだ。



「……もう空気はやだから」


「はあ?」


「みんなと仲良くしたい。あたしは、中村さんとも仲良くしたいよ」


「っ!?」



 みんな驚いてるみたいだけど、……嘘じゃない。



「誰があんたなんかとっ!」


「じゃあ無視したらいい」


「だ、だからあんたが人の男に……っ! もう彼氏に関わんな。一生、話すんじゃねーよ!」


「それでいいなら、池田くんとは話さない。謝って欲しいなら謝る、ごめんなさい」


「なにそれ。そういう生意気なとこ、存在自体がむかつくんだよ! クラスから消えて欲しいって言ってんの!! あんたはうちのクラスにいらないから」


「まー、存在がむかつくのは同意ー」



 田中さんも頷く。



「……お互いのこと知らないから」


「はあ?」


「あたしも中村さんみたいに好きな人が大事で、知ちゃん以外はどうでも良かった……。だから、クラスでも空気で良かったの、知ちゃんがいるから!」



 だから、何されてもまいっかって思えてた。どう思われても良かったから。



「でも、いろんな人とお話ししていくうちに、一人ひとりがおもしろいって思った。白黒の世界に色がついたの。今さらだけど、クラスのみんなのこともっと知りたい。多分、好きな人のために一生懸命な中村さんの気持ちも、すごくわかる」


「っ、全然ちげーよ! 黙れよ!」



 中村さんは瀬田さんの肩に乗せていた手を上げた。



「ぶちたいならそうしなよっ!」



 怖くても、もうあたしは目を逸らさない。

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