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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第4部 お姫様に寵愛を
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9/15(木) 穂積音和④


  ◆◇




 片手にたこ焼きの入った袋をぶら下げて、帰り道の商店街を抜けた。



「買い食い久しぶりだなー! うちの食い物のほうがうまいけど、たまにジャンクなの食べたくなるんだよなー!」



 隣を歩く音和の抜け殻は答えなかった。



「あれー音和ちゃんの中身どこいった。中身ー、俺とたこパしようウェイ!」



 俺だけはしゃぐ異様な姿を、近隣の奥さま方にジロジロ見られる。



「なにあれ、ストーカーかしら」

「女の子大丈夫?」

「警察?」



 なんて、ヒソヒソ声が聞こえてきた。



「ねえ、このままだと俺通報されるんだけど……」



 慌てて急に小声になる俺。



「……」



 抜け殻二人で歩いた。




  ◆◇




 日中はまだまだ暑いけど、夕方になるとだいぶ涼しくなった。外でも過ごしやすい季節だ。


 つうわけで、俺の好きな浜にやってきた。


 海の家の抜け殻を見つけて腰掛ける。今日のテーマは抜け殻だなー。たこ焼きの中身は入っていて欲しいけど。



「……知ちゃんは海が好きだね」



 たこ焼きを開けていたら音和がやっと口を開いた。ついでに一個、口にたこ焼きを放り込んでやる。



「うん。見飽きてるけど、落ち着きたいときとか見たくなるんだよなあ」


「ふぉーふぃふぇふぁ」


「食ってから喋りなさい」


「……そういえば子どものころ、さっちゃんに怒られたらうちか海にいたよね」


「よく覚えてるな。……げ、今も変わってねぇ」


「あはは」



 ぽいっ。



「ふっほむは!!!!」


「わははは」



 たこ焼きがなくなるまで音和ポイポイゲームで遊んだ。



 たこ焼きがなくなってからは、お茶を飲みながらぼーっと海の音を聞いていた。


 夕焼け小焼けのチャイムが聞こえて、ふと視線を道路側へとやったとき、音和が隣でもぞもぞと動いた。



「知ちゃん、あたしね、やっとクラスの子と少しずつ話せるようになったの」


「うん」


「いちばんよく話す女子が瀬田さんと角さんなのに。あたし、瀬田さんの、お財布盗んだって……でもしてない」


「うん、知ってる」


「でも、あたしの机からお財布出てきて、違うのに……」


「うん。違うよな」



 音和の目からはじめて涙がこぼれた。そういえば、職員室では泣かずに我慢してたんだな。



「だけどもういいんだ。あたしやっぱり知ちゃんだけでいい」


「音和……」


「知ちゃん。もう付き合ってとか、わがまま言わない。ただ、あたしの全てでいてほしいの」



 そう言うと、音和が胸に飛び込んできた。片手で受け止められるほど、音和は小さかった。


 今まで我慢していた気持ちを、俺の胸で全て吐き出すようにして音和は激しく泣きじゃくった。



「知ちゃんしか、あたしの気持ちをわかってくれない。でも知ちゃんがわかってくれてたらそれでいいよ!」


「俺だって全部わかってるわけじゃねーよ?」


「そんなこと、ないっ!」



 音和がぎゅっと制服を握り締める。それは俺が消えてしまわないようにという、不安の表れのようにも思えた。



「他人の気持ちなんて、誰にもわかんないよ。俺がわかってるのは、いつも音和が俺にぶつかってくれるからだよ。悲しいとかうれしいとか、好きとか嫌いとか。それ、クラスのやつらにも伝えてる?」


「……っ! だってっ」


「黙ってても誰もわかんないよ。あい活!してたときさ、結構お前のクラスのやつ、歩み寄ってくれてるなって思ったけど。それももういいの? 全部、なかったことにしていいの?」


「うぅっ……ぐすっ、ふえぇ……」



 小さな背中をぽんぽんと叩く。こいつの葛藤を、見守ってやりたい。



「……前のあたしなら、『違う』って。『知らない』って。お財布が出てきたときに堂々と言えたはずだった。でも言えなかった……」



 泣きながら話すのは困難そうだったけれど、一生懸命、音和は言葉にしようとしていた。



「……瀬田さんに、き、嫌われたくないと思ったら、怖くて、ぜんぜんっ動けなくてっ!」



 財布が見つかったとき、想像以上の冷たい視線をあびたのだろう。

 それは今までならどうでもいい人からの視線だった。


 でもそれが、好きな人からの視線に変わってしまったのだ。



「あたし、友だちができて嬉しかったけど、今度は失うのが怖いよ。こんな気持ちになるの知らなかった。だって知ちゃんがいれば、それでよかったから。全部、どうでもよかったからっ! でも、でもね。もう、どうでもよくないよぉぉ」



 よく言えました。


 もしかしたら明日、クラスでは針の筵かもしれない。


 大人気ないけど最悪、俺が出て行くことも考えていた。


 でも。



『クラスの子に聞いたんだけど、音和ちゃんが盗ったって思ってる子ばかりじゃないみたいよ』



 音和の担任が去り際に耳打ちしてくれた言葉が本当なら、もしかしたら乗り越えられるかもしれないと思った。


 まだ様子を見ようと思う俺は、エゴがすぎるのだろうか。




………………


…………


……




 夜、凛々姉からメッセージが来た。


 明日の虎蛇会について、活動休止要請が出た。という内容だった。

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