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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第4部 お姫様に寵愛を
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9/15(木) 穂積音和①

 昨日、先生と知ちゃんが付き添ってくれて病院に行った。

 帰ってからまた少しパパに怒られて、珍しく学校のことを聞かれた。何にもないって答えたら、それきり話は終わり。



 木から(どれくらいの高さからかはわかんないけど)落ちたのに軽い打撲だけだったから、今日は普通に登校することにした。


 朝、リビングに置いてあるお弁当をカバンに入れて外に出ると、パパはいつものように草むしりをしていて、あんまり話せなかった。

 庭はこないだ草取りしたばかりだからあんま草なんて生えてない。あたしと話すのがそんなに気まずいのかなって、つらくなる。



 学校に着くと、「大丈夫?」ってクラスで声かけてくれる人が何人かいた。

 中村さんたちは遠巻きに見ていた。どんな表情だったかはわかんない。顔、見たくないから。



 午前が終わって、お昼になった。今日はパパのお弁当だけど、知ちゃんに「屋上」って言われてる。

 リュックを持って立ち上がろうとすると、頭に冷たいものがかかった。それが首筋に流れ、背中もじわじわ冷たくなっていく。



「あーごめーん! 大丈夫!?」



 田中さんの手には、オレンジジュースのパックが握りつぶされていた。隣で中村さんもクスクスと笑っている。



「ごめんねえ、着替えた方がいいよー?」


「え、頭べとべとじゃん。洗ってあげようか(笑)?」



 笑い声を振り切って、黙って教室を出た。


 頭はハンカチを濡らしてふいた。

 制服は上だけ体操服に着替えた。

 たったそれだけで解決。

 全然たいしたことないよ。

 屋上に行った。

 知ちゃんとたかおみと3人でごはんを食べた。



 それから今日は久しぶりに知ちゃんの膝をまくらにお昼寝した。


 知ちゃんがいればなにも問題がないのに、なんでクラスなんかあるんだろう。なんでクラスで頑張らないといけないんだろう……。



 5限、知ちゃんは戻ったけど、たかおみとサボった。特に会話はしなかった。



 天気が崩れて雨が降り出しそうだったから、6限は出ることにして、たかおみと屋上を後にした。


 階段をおりていたら、下からあがってくる担任とばったりと出くわした。先生は驚いた様子で、あたしとたかおみを見比べた。けれどすぐに、いつものようにスマイルを浮かべた。



「あら。二人でなにしてたの?」



 可愛いと全校生徒に評判の若い先生で、話し方も、大人の色気がある。



「暗がりで男女がなにしてたか、聞くんすか」


「なんもしてないっ!!」



 いらんこと言うたかおみの制服の裾を引っ張った。先生は一瞬だけ顔をしかめたけど、すぐに笑顔であたしの首に抱きついた。



「ダメよぉ野中クン。音和ちゃんは、うちのクラスの可愛い可愛い生徒ちゃん。こんな純粋な女の子、あなたには似合わないわ。音和ちゃーん、行きましょ♡」


「せんせ、あたし、なにもしてないです……」


「わかってるわよ♡ あら、音和ちゃん。なんかオレンジの匂いする?」



 黙ってるたかおみを置いて、先生と一緒に1年の教室へと戻った。


 教室に戻ると、クラスがざわついていた。



「はーい、みんなどうしたのー?」



 教室の前から入った先生が、みんなに尋ねる。あたしは後ろから入って、自分の席にリュックを置いて様子を見ていた。



「瀬田の財布がなくなったんだって」



 こっそり二宮くんが教えてくれた。瀬田さんは最近よく話しかけてくれてる女の子だけど。大丈夫かな…… 。



「いつなくなったのー?」


「朝はあったんですけど、5限が終わってないことに気づきました……」



 今日は移動教室ないし、昼休みとかに盗られたのかな? あたしすぐ外に出たから、犯人に心当たりないな……。やだなクラスで盗難って。



「えー、じゃあ昼休みじゃないー? 先生持ち物検査しましょうよー」



 中村さんの声が通る。嫌な予感がした。



「そうねえ……。誰かのカバンに紛れてる可能性もあるしねえ」



 でもあたし、リュックずっと肌身離さず持ってた。だから大丈……。

 ハッとして机の中に手を入れる。指先にかたいものが当たった。


 中村さんと目が合った。


 ……これって。え、嫌だ。



「みんな自分のカバンとか机の中とか見てくれるー? ヴィヴィアンのお財布だって。もし紛れてたら教えてぇー」



 先生の指示に、みんな自分のカバンを覗き込む。


 どうしよう。どうしよう。


 そっと机の中のものを膝の上に出してみると、ヴィヴィアンのお財布だった。



「……」



 冷や汗が流れる。手が震える。



「穂積ちゃん……」



 隣の二宮くんが気づいて、教室中の視線が水の波紋のように広がり、あたしに注がれた。



「それ、あたしの……」



 瀬田さんの声に顔を上げる。冷たい視線が刺さる。



「知らない……」



 体が震える。先生が近づいてくる。



「音和ちゃん……ちょっと職員室で話そうか」



 困ったように笑っていた。

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