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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第4部 お姫様に寵愛を
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9/14(水) 穂積音和②

 あたしは立ち上がってリュックを背負い直すと、わき目も振らずに走った。



「あ、逃げたー」


「だから! クラスの仕事はー!?」



 笑い声を無視して、階段から1階までダッシュする。


 3年生がベンチでくつろぐ脇を通り抜けて、ぬいぐるみが引っかかった木を下から見上げた。

 葉っぱが生い茂り、どこにあるのか見えない……。木を思いっきり蹴ると少し揺れるけど、葉っぱがはらはらと落ちてくるだけだった。


 3年生が少しずつ注目しはじめた。教室からわざわざ出てくる人もいる。



「なーにやってんでーすかー?」


「クラスの仕事放棄しないでくださーい!」



 わざとらしい声が上の階から聞こえてきた。


 無視して周りを見渡すと、壁に銀色の脚立が立てかけてあるのを見つけた。引っ張り出し、木の下に置いて、リュックを下ろしてのぼってみた。ひとつめの枝までは、あたしの身長でも手が届きそう。


 ……登るしか、ないっ!



「三代目! 待っててっ!!」


「えっ、誰か上にいらっしゃるの!?」



 近くのベンチに座ってた男子が、驚いて立ち上がって木を見上げた。



 枝に手をかけ、ひょいっと飛んで体を枝に移す。3年生がざわつきはじめた。先生が来る前に、見つけなきゃ。


 比較的、枝はしっかりしていて登りやすかった。下を見ないようにすれば全然上まで行けそう。

 木の幹を限界までよじのぼり、次の枝を手を伸ばしてつかみ、体を浮かせる。


 そのとき2階の人と目が合った。

 スマホを構えてムービー撮っている人、本格的なカメラを構えている人。……見せ物になってる、あたし。


 でも気にしていられない。怖いと思ったら終わりだから無心で登っていく。風が吹くたび、木の幹に体をくっつけて我慢した。

 上の枝になるほど細くなっていき、だんだんと足場も不安定になった。


 もう少し…。もう少し頑張れ……。


 ふと、上方の枝の先に赤い布がちらりと見えた。あれだ。あと2本先。

 よいしょっ。あと……1本!


 ぬいぐるみが引っかかる枝を頭の上で掴んだ。かなり細い枝で、のぼって取りに行くのは難しそうかも。下の枝に座って足を絡ませ、片手で幹を抱きしめて体を固定し、上の枝を揺する。


 ……落ちない。



「こらそこの女子! 危ないから降りてきなさい!!!」



 とうとう誰かが先生を呼んだらしい。集中してるのに邪魔されてムッとした。

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