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彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第4部 お姫様に寵愛を
173/301

9/10(土) 小鳥遊知実

 病院の受付を終えて部屋へと向かっている途中で、聞きなれた声に名前を呼ばれた。



「なっちゃん、お久しぶりです〜!」


「あ! エミちゃん!」



 わーいと、廊下の真ん中でハイタッチをする。



「学校はどうですかー?」


「うん、調子いいしめっちゃ楽しい。聞いてよ、もう少しで文化祭なんだけどさ〜」


「あ、それはあとでゆーっくりと聞きますね♡」



 エミちゃんが平手を俺の前にずいっと差し出した。そしてたじろぐ俺に、片目をつむって見せる。



「私、なっちゃんの土日のお世話担当に立候補したんですよ」


「え……そうなんだ?」



 そのときの俺、笑顔が少し引きつっていたかもしれない。




………………


…………


……




 部屋に美原さんが訪れて、退院後のスケジュールを説明された。隔週の土日は病院に宿泊して投薬治療。投薬をしないときも土日どちらかで通院しないといけないらしい。



「俺の自由とは……」


「あんたの優先は文化祭でしょ。他のことは知らん」



 ピシャリと言われてしまった。



「ところで学校では具合は悪くない?」


「会長にイラついて具合悪いくらいですね……体調は平気ー」


「ああ、なんか変わった会長なんだっけ?」


「ちょっとだけ美原さんに似てますよ。美原さんから無邪気を抜いたあとみたいな感じ」


「なんだそれ。写真ないの?」


「……ないです」


「その溜め、持ってるな? んじゃ、数値見たいから検査と一緒に治療に入るわね。ほら、寝な」



 美原さんがエミちゃんに指示を出しているのを見ながら、ベッドに横たわる。



「用意している間に、写真出しときなさいよ」


「!!?」



 容赦ねえー!!

 写真つっても、ファンスタのしか持ってないし。あれ見られるくらいだったら、俺舌噛む!!


 しかし数分後、まんまと女子のパワーで無理やり写真を見られ、めちゃくちゃにからかわれたのであった。




 ◆◇




 投薬治療は結構エグい。土日フルで時間を取られる。


 日曜は回復の予備日。急変しても対応ができるように病院に泊まる。


 病院は好きじゃないけれど、帰ると強く言わなかったのは、家にはいちごや柊杏もいるからだった。



 午前中の治療を終えて、ようやく少し身動きが取れるようになる頃には、空はすっかり暗くなっていた。


 できれば動きたくないけど、トイレには行きたい。その思いで体を起こした。枕元の時計を見ると、20時前だった。


 すぐにドアからエミちゃんが顔を出した。



「なっちゃんお待たせ〜。トイレかな?」


「うん、ごめんね」


「いいんだよ、支えるね〜」



 エミちゃんの手が腰を支えてくれて、ふらつきながら、立ち上がった。



「ここでしちゃえばいいのに。面倒見ますよ?」


「花の男子高校生なんで、本当に、むり……」



 スリッパをはくと、意外に立てた。車椅子は必要なさそうだ。エミちゃんもついてくれてるし、歩こう。


 一歩一歩がふらつくため、トイレへの道が長く感じる。


 だけどエミちゃんが腕を絡ませて、近くで支えてくれたから安心して歩けた。



「なっちゃんの治療初めて見たんだけど、結構アレだなーって……」


「えぐいっしょ」


「えぐかった〜」



 正直に苦笑いしていた。静かな廊下に、俺たちの足音が響く。



「でもエミちゃんがいたから、あれでも耐えてたほうよ」


「そうなの? そんな、無理しなくてもいいのに」


「そんなわけにも」


「でも、美原先生には見せてるんでしょ、なっちゃんの弱いとこ」


「まあ……」



 初めての治療のときはひどかったな。顔が吐瀉物と涙でべっちょべちょで。あれ見られたら、もうなんでもいいわって感じになってしまった。



「遠慮しないでくださいね。私も成長したくてなっちゃんの担当に立候補したから。君ってポジティブだから、一緒にいると、私までがんばろうって気になれて」


「え……?」


「二人で過ごす時間も増えるでしょ。もっと頼れるお姉さんになるから、ね!」



 見た目中学生の成人の子が胸を張っているのは、おもしろすぎるし微笑ましい。

 けれど。



「あっ、ごめんエミちゃん……吐く」


「あらあら! ありますよ、こちらにどうぞ〜」



 全然余裕がない俺だった。

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