表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女たちを守るために俺は死ぬことにした  作者: うんちん丸
第4部 お姫様に寵愛を
152/301

9/2(金) 穂積音和②

 1階まで猛ダッシュした。いろんな理由で動悸が激しいが、胸をぐっと押さえつけると少しマシになった……気がした。そう、古来から言うしね、病は気からって!



 渡り廊下を視界に入ると、すぐに目を皿のようにして音和を探す。

 探すまでもなく、あいつはひとりきりで、廊下の縁に座っていた。地面から高さがある渡り廊下から足を投げ出し、膝の上にさっき渡した弁当を置いていた。



「……音和」



 声を掛けると、首だけこちらに向ける。そして、いつものように。



「あれー、知ちゃん!」



 音和はうれしそうに俺を呼んだ。



「えへへ、見つかっちゃった」



 ばつが悪そうに彼女は笑う。



「最近はここで、ごはん食べるんだ」



 いつもの元気さはなく、ぶらぶらと揺らした足先を見つめていた。


 こんなことになってるなんて、全然知らなかった。



「俺らと一緒に食べないときは、ずっとここで?」



 おそるおそるたずねると、音和はこくんと首を縦に振った。



「6月くらいからかな。たかおみにはすぐ見つかって、嫌だったけど一緒にごはん食べたこともある」



 野中たまに休み時間の終わりごろに屋上来ることあったけど、そういうことだったのか。何も聞いてなかったな……。



「ごめん、気づかなくて。でも、さっきの子らは?」


「あの人たち? あー。たかおみと話したかったって怒ってた」



 あはは。と音和は笑う。いつもの悪いパターンだ。女が声を掛けて来た時点で気づくべきだった。



「あーーーもう、ほんと、ごめん!」



 思いっきり頭を下げた。悔しくて、思わず拳を握りしめる。



「ううん、見つけてくれたからいいよ」



 でも音和は、こんな俺も許すというのだ。



 音和の隣に腰掛けた。


 そこから見えるのは、学校を囲むフェンスとその向こうに車がほとんど来ない道路があるだけで、つまらないものだった。


 それをこいつは日々ひとりきりで、見続けていたのか。



「えっと……食べる?」



 音和が機嫌を伺うかのように、そっと弁当箱を差し出す。その仕草に思わず、眉間に寄せたしわが崩れてしまった。



「ああ、いや。大丈夫。……ふふっ。きちんと食べな、大きくならんぞ」


「うん。サッチンのごはんはおいしくて好きー」



 少しずつ、箸を口に運ぶ音和の隣で考える。


 音和が友だちを作るにはどうしたらいいんだろう。俺が手伝えることはほとんどなさそうな気もするけど……。放っておくことは、さすがにできないよな。



「お前、クラスで話す人は?」


「いない」



 うおい、即答かよ……。



「でも、授業で話すこととかあるだろ?」


「閉口」


「なんでっ!?」


「……みんなおもんなくて、口も聞きたくない」



 ……こいつの自業自得じゃねーか。



「おいおい音和、それはまずい。お前の評判が下がる一方で、俺がつらい」


「なんで知ちゃんがつらいの? 関係ないよ?」


「大事な子が人に悪く思われるのは嫌だろ? お前は変だけど根はいいやつなんだから、誤解を与えるのはしんどすぎる」


「そうなの? でも小中ずっとこうだったよ」



 と、首を傾げる音和さん。


 こいつの学生生活は歪みすぎだろ! メンタル弱そうに見えて、実はハガネだな……。



「友だちかー」



 うーんとうなってから。



「どーやって作るの?」



 と、期待を込めて見上げてくる。



「それはだな」


「うん!」


「…………」



 おい。



「??」



 小鳥遊知実。たかが友だちの作り方だぞ。

 なにかないのかよ。それっぽい案的なやつ。



「……よし、みんなに聞いてみよう!」



 民主主義を取ることにした。




Q.どうやったら友だちができると思いますか?




・七瀬の場合


「ウケる〜! 友だちって、作ろうって思って作るものじゃないじゃん? なんか自然にいるっていうかぁ」




・野中の場合


「男は拳で語る!」

「語ったことねーから俺らは友だちじゃないな」

「うそうそ、なっちゃーーーんっ!」




・凛々子&詩織の場合


「…………」


ピシャッ



「なにあいつ。あたしたちの顔見て急にドア閉めて」

「??」




・いちごの場合


「え、あたし!? えっと……転校多かったし、長く付き合ってる子いないかなあ……」


「うー。知ちゃん〜?」


「むう、ここもダメか」



 やっぱり七瀬の言う通り、友だちっていうのは自然にできるもんだしなあ。



「あっでも、“新しく人の中に入っていく”のは経験が多い……かも?」



 それはいちごが初めて頼もしく見えた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ